Short Story

□聖なる夜も騒がしく
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「……っ!」

 すると赤崎は真っ赤になって、
後藤がそっとおもしろくない顔
をしたのが視界に入る。
 だが、達海の手を赤崎の頭の
上から持ち上げたのは、後藤で
はなく村越だった。

「あ、村越。お前も早いじゃん」
「あんたが若手にちょっかいか
けられてやしねぇか心配だった
からな」

 という村越の言い分に、あれ、
俺が若手弄ってないかが心配の
間違いか? と首を傾げたが、
村越が微かに視線を動かして若
手を睨んだ気がするので、聞き
間違いではなさそうだ。
 なんだか少し照れるのは普段
の村越との差が激しいせいだろ
う。

「あ、そだ! これ、みんなで
食べましょう!」

 村越が離してくれない手に顔
が熱くなって、どうしよう、後
藤が見てるのに……と思ってい
ると、助け舟のように世良がず
いっと差し出したのは、なぜか
クリスマスっぽくないことこの
上ない肉まんをたくさん詰めた
袋だった。

「でも、美味そうだね。いい匂
い」
「ですよね! 俺、ここの肉ま
ん大好きなんス」

 あぁ、世良って和む……と思
いながらきゃっきゃしていると、
椿と宮野、ベテランカルテット
などがやって来て、いつの間に
か会議室は人だらけになった。

「おっ、清川〜。お前いい酒持
ってんじゃん」
「あっ、ガブ! お前なに勝手
につまみ食いしてんだよ!」
「つーかなんか狭くねーかおい
っ!」
「黒田さんが暑苦しいのは確か
っスね」
「なんだとテメェ、バカ崎ごる
ぁっ!」

 人が集まるにつれ、すでに収
拾がつかなくなってきて、コー
チ陣すら制御する気がないよう
に見える。

「あーこらこら、なんか勝手に
初めてるみたいだけど、まずは
乾杯からでしょ。全員、呑むも
ん持ったな?」
「持ちましたぁ!」
「おぉい、こっち、シャンパン
足りねぇぞー!」

 そんな声が響く中、それぞれ
に飲み物が行き渡ったのを確認
して、達海は細長いグラスを高
く上げた。

「ちょっと早いけどな、メリー
クリスマぁス!」

 わぁ、と騒がしい声がしてグ
ラスのぶつかり合う音がする。

「あ、このサーモン美味いわ」
「誰だよ、煎餅とか買ってきん
の!」

 ギャハハ、と笑い声があちこ
ちでして、達海もビール片手に
ご満悦だ。

「達海さん、やっぱりビールな
んスか」
「うん、そう。飲み慣れないも
ん入れると酔っ払うの早いから」

 えー、今日くらい酔っちゃい
ましょうよ、と絡んでくるのは
石神だ。

「見たいなぁ、達海さんの酔っ
たとこ」
「やーだよ。そんな呑みなんか
しません」

 笑えば、石神はむーっとした
顔でコーチ陣を労っていた後藤
に尋ねる。

「後藤さんは知ってるんスか?
達海さんの酔っ払ったとこ」
「ん? あぁ、まぁな。酷いぞ、
こいつ」

 酔いが過ぎると、達海は途端
に甘えたがりに変貌するため、
駄々っ子のようにスキンシップ
を要求する。
 その犠牲の最たる人物が後藤
で、前後不覚になってなにがお
かしいのかケラケラと笑いっぱ
なしになった達海にべったりと
抱き着かれたが最後、剥がせば
半泣きになるしそのままにして
おけば眠ってしまうしで大変な
のだ……と、酒が過ぎた後には
いつも叱られる。
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