Short Story

□嵐を呼ぶ男
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 なぜ目を合わせてくれない赤
崎と、ティッシュを大量に使っ
て鼻を押さえている椿を交互に
眺めて、達海はぷうっと膨れた。

「別に珍しくもねーじゃんか男
の脚なんて。しかも、シャワー
浴びてる時はマッパだろ?」
「いっそ真っ裸のが清々しいス
よ! 中途半端に隠れてっから
エロいんだ!」

 怒鳴る赤崎の言葉の意味がわ
からない。
 自分の脚のどこがどうエロい
のか、順を追って説明を求めた
い……ようなそうでないような?

「じゃ、脱いだらいいのか?」
「わわっ、ダメっス! やめて
やめて監督ーっ!」

 ジャケットのチャックを半ば
まで下げると、慌てた世良が達
海の手を止める。

「もー、どうしたらいいんだよ?
パンツとか人のなんて穿けない
じゃん」
「いまどきコンビニにだって売
ってます、パンツくらい! 俺
が買ってきますから、あんた大
人しく部屋にいてくださいよ!」

 鼻血の止まらない赤崎に宣言
されても、行かせるわけにもい
かず、達海が渋い顔を浮かべる
と。

「……お前ら、パンツパンツっ
てうるせーんだよ!」

 世良、赤崎、宮野の順に頭を
叩かれ、叩いた主である堺とそ
の後ろで沈痛な面持ちをしてい
る村越、赤面して崩れ落ちてい
るその他の若者たちが目に飛び
込んできた。
 丹波は爆笑寸前、石神はは明
らかにおもしろがっていて、堀
田は呆れ果たしているようだ。
 唯一緑川だけが平然と立って
いるが、ほんの少し視線を逸ら
して赤くなっている気がするの
は気のせいだろうか。

「だって……堺さぁん!」
「欝陶しい、泣くな! あんた
はもっと羞恥心持てよ、達海さ
ん!」
「えー……俺だって好きでこん
な格好してるわけじゃねーのに、
なんでこんな怒られんの」

 拗ねる達海に、堺が少しだけ
怯む。

「怒るに決まってんだろ、腿に
ついてんぞ、痕」

 村越に指摘されて、あ、と思
う。
 やわい所を吸われた痕跡が三
つほど達海の内腿に残っていて、
間違っても自分ひとりで成立す
るはずのない行為を生々しく感
じさせるには十分だと気づいた。

「つーかお前、ンなとこ見てん
なよ、えっち〜」
「なっ……テメェ!」

 わざと内股になりつつ少し屈
みながら太腿を手で隠した達海
が唇を尖らせてみせると、村越
が赤くなりつつ怒鳴り声を上げ
た。
 おもしれー、と思っている達
海を見て、夏木が突然詰め寄っ
てきた。

「達海さん、誰とスか!」
「えっ?」
「誰とヤったんスかその痕っ!」
「えっ、ちょ、なにお前、近い
……」
「そんなトコに痕残すなんてど
この男なんスか!」
「あれ、夏木、知らないんだっ
け」

 遅ればせながら登場した杉江
が言うと、夏木がグリンっ! 
振り返っておかしな顔をしてい
る。気持ち悪いを通り越しても
はや怖いという域だ。

「何をっスか! ねぇ杉江さん、
何をっスかーっ!」

 食ってかかる夏木にうるさげ
な顔をする杉江は、目で「言っ
ていいんですか」と問い掛けて
きた。

 ――えー、どうしようかな。

 夏木は煩いし、面倒臭いのは
嫌だ。
 だが、メラメラしている夏木
はどうしても引かない様子に見
える。
 仕方ないなぁ、と頷こうとし
たとき。
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