Short Story

□2011年賀正SS
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 まるで懐かない犬が気を許し
た瞬間のようで、達海の方が驚
く。

「あーっ、赤崎テメェ、ずりー
ぞ!」

 そんな姿を見た黒田がギャン
ギャン吠えながら寄ってきて、
赤崎を引きはがすべく努力し始
めた意味がわからない。

「クロちゃん、なに怒ってんの。
変なヤツだなー」

 自分も十分酔っている。自覚
しながらの笑いはいつもより明
け透けなく、俺もガキみてー、
と思った。
 だが、その笑みに何故かほぼ
全員が達海を注視したことに遅
れて気づく。
 もちろん、気づいた時には遅
かった。

「達海、お前、その笑顔は反則
だろ!」
「……レッドもんスよ、今のは」

 後藤、村越両名に言われたが、
まったくもって謎である。
 達海はふたりの顔がおかしく
て、そのまま笑い続けて、その
笑顔にまず清川がフラリとよろ
めき、世良が呑んでいたチュー
ハイを口からダーッと溢れさせ、
丹波が箸を取り落とした。
 一番反応が顕著だったのは椿
で、ブッと鼻血を出したのに驚
き、さすがに笑いが止まった。
 堀田が呆れ顔でティッシュを
差し出し、堺が嫌な顔をしなが
ら日本酒を呑み、石神は明後日
の方向を見ながらポリポリと頬
を掻いている。

「……なんだお前ら、みんなし
て? なんかあったのー?」
「酷いな、無自覚なのか、達海
さん」
「緑川! 何言ってんのか不明
です! 杉江ー、なんか全員軒
並み変なんですけど!」
「達海さん、ちょ、近いですっ
て……」

 ずいっと杉江に顔を近づけて
みると、コンビの黒田とは真逆
で落ち着いた雰囲気の杉江がい
つになく動揺し、目を逸らすで
はないか。
 達海はムッとして杉江の頬を
両手で挟み、鼻先がぶつかりそ
うなくらいに近づいた。

「目ぇ逸らすの禁止だかんね」
「え、た、達海さ……!」

 じーっと見つめ合うこと十数
秒、杉江がゴクリと喉を鳴らし、
達海が興味を失う前に、強く肩
を引っ張られてよろける。

「ン、む……!」

 なんだ、と思う間もなく唇に
重ねられた感触に戸惑い、驚い
た。
 自分の頤を持ち上げているの
は椿だと気づいたからだ。

「つ、椿テメェ!」

 怒声が多重音声になり、今度
は椿から引きはがされた達海は
そこから理由もわからずキス地
獄にはまり、途中から誰の唇が
触れ合っているのかわからなく
なった。
 酸欠が酔いを加速させている
のか、目の前がチカチカし始め
たのだ。
 ただ、最後は後藤だと思う。
 抱きすくめられたときにワイ
シャツの手触りがした。

「……無防備すぎだろ、達海。
そんな顔して、誘ってるのか?」
「ちが、も、やだ……意味わか
んね……」

 くったりと後藤の胸にへたり
こんだ達海の背中を後藤がさす
る。
 触れ合うだけのキスから舌の
入り込む濃厚なキスまで、性的
な興奮を否応なしに煽られた達
海の体は酒気のせいもあって熱
く、ぎゅっと抱き締められなが
ら何故か後藤の手が背中だけに
留まらず胸やら尻やらを撫で回
すのを止める気力がない。
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