Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【10】
2ページ/4ページ

「ガキみてーなことしてるから
スよ。だいたい、あんたはアイ
スばっかり食い過ぎだ」
「ばっかりって、そんな食って
ねーよ」
「嘘つけ、気がつきゃくわえて
んだろ。最近、タマゴサンドと
あんパンの合間にアイス食って、
それ以外のもん食ってるとこ見
てねーぞ」

 言われて、達海は言葉に詰ま
った。

 ――よく見てんな、こいつ。

「外食とか、外行くの面倒臭い
んだよ」
「選ぶのがでしょうが。いいか
ら、今夜飯食いに行くぞ。七時
には迎えに来るんで、食いたい
もん考えといて下さい」
「え、え? マジで?」

 スタスタと行ってしまう村越
の背中を半ば呆然と見送る達海
と、まだショックから立ち直れ
ないらしい数名を、堺が蹴散ら
す。

「お前ら、ボケっと突っ立って
んじゃねーよ。さっさと着替え
て帰れ。監督は早く手ぇ洗いに
行ったらどうなんスか」
「え、あー……てか堺、お前は
ホントに俺が嫌いなんだな?」
「だから、なんでそうなるんだ!
全然嫌いじゃねーよ!」

 堺が怒鳴り、達海はぽかんと
口を開けた。
 力強く断言してしまった堺は、
ハッとしてから苦虫を噛み潰し
たような顔になり、うっかり口
が滑って、明かしたくないこと
を吐いてしまったという雰囲気
を醸し出した。
 緑川が軽く吹き出し、清川は
ガボーンなどと効果音が付きそ
うな顔になったが、世良と夏木
はまだ村越ショックから立ち直
れないようで、その困惑具合は
まるでインタビュアーを前にし
た椿のようだ。

「へー、堺、俺のこと絶対嫌い
だと思ってたけど、違うのか。
そいつは新しい発見だ」

 ははっ、と笑うとますます渋
面を作る堺だが、よく見れば若
干顔が赤い気もする。

 ――へー、こういうことで照
れるんだ、こいつ。意外にかわ
いいとこあんじゃん。

 などと思っていると、達海の
視線に堪えられなくなったのか、
堺は試合中の冷静さとは掛け離
れた荒々しい歩調でクラブハウ
スに引っ込んでしまった。

「達海さん、もう少し色々と察
してくれますか。限界寸前な奴
も結構多いみたいだ」
「緑川……つーてもお前、なに
察すればいいの、俺? これで
も一応、ちゃんと見てるつもり
なんだけど」
「サッカーのことは、でしょう。
それ以外のチームの動向につい
て、そろそろ気ぃ配った方がい
いと思うんですが」
「それ以外……ってなんのこと
さ? 清川ー、緑川が難しいこ
と言う!」

 だんだん考えるのが面倒臭く
なってきて適当に振ると、清川
はなんとも言えない表情になっ
た。

「や、緑川さんの言う通りスよ。
ほんとに色々、察してください
よ、監督〜。村越さんがって考
えるだけでも難関なのに、堺さ
んとか参戦したら俺ら若手にチ
ャンスないじゃないスか」
「……何の話してんの、お前?」

 まるでわからん。
 と思いながら尋ねても、清川
は肩を落としてため息をつくば
かりだし、緑川は小さく笑いな
がら行ってしまったので答えて
はくれない。
 世良と夏木は……。

「うおー! 俺は負けねーっス
よ、監督!」
「俺も! 俺も頑張ります!」
「はっ? なに……いや、あ、
うん、頑張ればいいんじゃね?」

 なにかいま、めちゃくちゃ嫌
な予感がしたぞ……と思いなが
ら聞くのを拒否する達海の無責
任な応援に、世良と夏木はます
ますヒートアップしていったが、
達海はそそくさとその場を後に
した。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ