Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【07】
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「あー、わかる気がする。達海
さんて本気でイラっとするもん
ね!」

 と、有里は容赦がない。
 当時のチームメイトからも、
よく言われたものだ。
 達海の相手は面倒臭そうだ、
後藤は毎日よくやるよ、と。

「猫みたいでさ、あいつ。俺に
対して警戒心丸出しで、全然触
らせてくれないもんだからこっ
ちもムキになっちゃって。毎日
寮中追いかけ回したもんだ」
「そうよね、達海さんは絶対、
わがまま放題の猫タイプよ。後
藤さんは犬っぽいけど」
「有里ちゃん、椿を犬に例えて
から、動物に例えるの気に入っ
たのか?」

 てへっと笑う有里は、もう一
度写真に目を落とした。

「でも、そんなんでよくこんな
写真撮れたわね。達海さん、全
開で後藤さんに甘え放題じゃな
い」

 ふたりでパピコを食べる写真。
 しかし、達海はどう見ても、
後藤に食べさせてもらっている。
つまり、ふたつのパピコは両方
後藤の手にあり、達海は後藤の
手からパピコを食べているのだ。

「あぁ、これは逆に、懐かれ始
めなんだよ。俺にべったりだっ
た頃。チームメイトとの距離を
計りかねて、俺を基準にしてた
んだ」
「……野生動物なの、達海さん
て?」
「限りなく近かったなぁ。時々、
耳と尻尾が見える気がしたもん
だ」

 最初は名前を呼ぶだけで尻尾
を逆立てていたものだが、次第
にこちらの様子を伺い、気がつ
くといつの間にか側に寄ってく
るようになった。
 それがなんとなく優越感を呼
び起こし、後藤はしばらくの間、
達海をベタ甘に甘やかして周囲
から呆れられたものだ。

「……わかったわ、後藤さんが
そうやって甘やかしたから達海
さん、わがままで気まぐれな人
になっちゃったのよ!」
「うっ!」

 否めない。
 そもそも、達海のタマゴサン
ド好きの発端は後藤なのだ。
 餌付けの餌に使用したのが、
それだった。

「色々ごめん、有里ちゃん……
あいつが迷惑掛けて」
「誰が迷惑かけてるんだよ?」
「えっ、あ、達海さん!」

 後ろからひょいと現れた達海
に、今度は有里が驚く。

「あれ、村越さんも一緒? 珍
しいわね」

 村越と達海は、穏やかな空気
を漂わせている。
 どうやら仲直りできたらしい。
 最初から達海に甘い自分と、
適度に厳しい村越。
 達海が選んだのは、当の本人
たちが思わず納得するような相
手で、後藤は達海の背中を、達
海は村越の背中を守っている。
 年の順であり、立場の順であ
る。

「で、誰が迷惑かけてるってん
だよ、後藤」
「あんたよ、あんた! ひとの
ことパシリよろしく使うかと思
えばなにやるんでも気まぐれす
ぎる! 携帯持たないし腕時計
しないし、そういうルーズなと
ころにも苦労させられてんのよ、
こっちは!」
「ふーん……どうでもいいけど、
有里、そんな怒ったらシワでき
るぞ」

 有里の怒りをスルーする達海
に、ギャース! と有里が吠え
かかる。
 後藤はまぁまぁ、と宥めすか
し、村越は無言のまま、有里の
迫力にたじたじだ。
 いま、こんな日を過ごしてい
ることが、後藤にとってどれだ
け愛おしいものか、きっと達海
にはわからないだろう。
 あの日、空港に見送りに行っ
た日、達海は笑っていた。
 だから、突然の移籍の理由も
何も聞けないまま、達海の手を
離してしまったのだ。

「あ、そうだ。達海さん、見て!
 この写真!」
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