Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【05】
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 グラウンドから出たところで
村越が待ち構えていた。
 相変わらず双眸が鋭い。

「松ちゃん、先行っててよ。キ
ャプテン、なんか俺に話したい
みたいだからさぁ」
「はぁ……それじゃあ先に上が
りますね」
「うん、お疲れ。明日遅れない
でよ」
「監督が言いますか、そういう
ことを!」

 松原はオーバーなリアクショ
ンで驚いて見せてから丸っこい
体を揺らしてクラブハウスへと
引っ込む。

「アハハ、松ちゃんてほんとに
おもしろいな」
「あんたは本当に誰にでも愛想
振り撒いてんな」

 ゲラゲラと笑う達海に、村越
が今日初めて口を開いた。
 達海はそんな村越を見詰めて、
軽くため息をつく。

「なに、絡んでんの? ていう
かさー、誰にでもって誰だよ?
 俺は別に、普段通りだけど?」
「ってことは、普段からたらし
こんでるわけか。ま、たらしこ
まれた俺が言うことじゃねぇけ
どな」

 ――あれ、もしかしてこいつ、
なんか拗ねてる? なんで? 
後藤のこと? それはいまさら
だよな。

 それとも、本当はずっと気に
なっているのだろうか。

 ――そりゃそうか。二股だも
んな、俺、いま。でも、だって。

「あのさー、俺さ。最初に言っ
たじゃん。二人とも好きになり
そうだって」

 ぷいっとそっぽを向いて呟く
達海の言葉の先を、村越はじっ
と待つ。

「やばいんだよね。だってもう、
どっちのことも手放せないもん。
お前か後藤か、どっちかが離れ
てったら、俺、泣くかも」
「……嘘つけ。あんたは泣かね
ぇよ。それに、もし離れてくと
したら、俺や後藤さんじゃなく
てあんただ、達海さん。またふ
らっといなくなって、その間も
俺達を縛り続ける。間違いねぇ
よ」
「お前、俺をどんだけ性悪だと
思ってんだ」
「性悪よりさらに悪ぃよ。引き
寄せて離さないくせにあんたは
自覚してない。一応聞いとくが、
俺と後藤さんだけなのか?」
「……なにが?」

 嫌な予感がする。
 眉根を寄せて問い返す達海に、
村越が炸裂弾を撃った。

「あんたを抱いた男の数……っ
痛ぇ!」

 頭に血が上って、つい衝動的
に村越の腹目掛けて拳を叩き込
む。
 ドスっと音がした程だ。
 そしてくるりと踵を返すと、
スタスタとクラブハウスに向か
った。

「た、達海さ、」
「うるせぇ、しばらくお前とは
口きかねぇかんな」

 子どものような言い分だと思
った。
 だが、達海は怒っているのだ。
 わけのわからない勘繰りでた
だの尻軽のように言われるのは
我慢ならない。
 押しに弱い自覚はあるが、誰
彼構わず体を重ねるなんて真似
はしていない。達海には達海の
基準があって、きっと後藤は最
初から好意を抱く範疇だったの
だ。
 村越は、勘違いからのギャッ
プに揺さ振られた。
 嫌われていると思っていた相
手が、実は強く想ってくれてい
たと知ったときの衝撃は今だに
深く刻まれている。
 それなのに。

「ま、待ってくれ、達海さん!」
「離せ!」

 掴まれた手首を振りほどき、
達海は目も合わせず歩いた。
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