Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【03】
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「わ、有里ちゃん……!」

 僅かに離れた位置から有里が
怒っている声がして、後藤が慌
てて村越に隠れろとジェスチャ
ーを送る。

「達海なら、起きてるよ」
「そうなの? 珍しい。いっつ
も練習遅刻するから、今日は早
めにたたき起こしてやろうと思
って来たんだけど、後藤さんが
起こしてくれたんだ……って、
あれ? 後藤さん、昨日の服装
と同じじゃない? もしかして
達海さんの部屋に泊まったの?」
「えっ!? あ、うん、そうな
んだ。次の試合のこと話してた
ら、夜が明けちゃってね」
「ふぅん? ちょっと、達海さ
ん!」
「わっ!」

 後藤を押しのけて顔を出した
有里に驚いて、達海はジャージ
のチャックを上げようとしてい
た手で思い切り顎を打ち付けた。

「なにやってんのよ、もー。早
く顔洗って支度しなさいよ!」
「はぁい……」

 ごんって言った……と、涙目
になる達海に呆れ顔を向けて、
有里はくるっと踵を返す。
 やれやれ、と後藤がため息を
ついたその時、歩き出そうとし
た有里が再び部屋の中に視線を
投げた。

「達海さん」
「……なんだよ、有里?」

 極力動揺しないようにしなが
ら尋ねると、有里はため息を尽
きながら首を振った。

「パンツくらい穿きなさいよ、
大人なんだから!」
「……!」

 バレたーっ!?
 と、後藤が血の気を引かせて
いると、有里は床に落ちている
衣類の上にあった達海の下着を
指差して怒鳴った。

「いっくら夕べが暑くて寝苦し
かったからって、一人で起きれ
ない人が素っ裸で寝ないでよ!」

 そう叱り付け、後藤にも、後
藤さんも嫌でしょ、起きたら達
海さんが全裸で寝てたら! と
言いながら去って行った。

「……寿命が縮む……」

 後藤がその場にへたりこんで、
ドアの影にいた村越も顔色を青
くする中、達海だけはようやく
見つけた下着を拾い上げ、ほん
とだーガビガビ、などと言って
いる。

「達海はいいな、こういうとき、
強心臓ぽくて……」
「ニヒー、俺、本番に強いタイ
プだから」
「同じ本番でも、夕べは泣いて
たくせして」

 悔し紛れに村越が毒づくと、
またしても達海から枕が飛んで
きた。

「村越のオヤジー」
「うるせぇ、あんたより若ぇよ」
「ふたりとも、早くしないとま
た有里ちゃん来ちゃうぞ!」

 その一言に、ふたりは慌てて
支度を始めた。
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