Short Story 2

□Good night baby.
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 達海は懸命にキスを繰り返し
ながらも、羞恥で耳まで真っ赤
になっていく自分を自覚してい
る。

「……ん、俺が、寝た男なんて
……お前、だけ……だって」

 キスの合間に言葉を紡ぐと、
後藤は達海からのキスを受けな
がらも、服の上から達海の胸を
まさぐってきた。
 達海の瞳がトロリと落ちて、
いつの間にか、キスの主導権も
後藤に委ねていることに気づい
ていない。
 後藤は達海の体を自分の膝の
上に移動させると、裾から手を
入れて直に肌に触れてきた。

「どうかな、お前はすぐ色っぽ
い顔するから……勘違いした男
に狙われてやしないか、心配だ」

 そんなことを言いながら顎か
ら喉に唇を滑らせる後藤が言っ
ているのは、先日やってきた達
海の代理人を称する男のことだ。
 後藤はその男が達海に惚れて
いるのではないかと懸念し、達
海はそれを否定せずに、俺が好
きなのは後藤だけだって、と主
張した。
 それ故に後藤が心配と、後藤
が知らない十年のことを懸念し
て、今に至る。

「色っぽい顔って……どんなん
か知らない、けどさ」

 ピリピリと走る快感に、達海
の言葉は少しだけ途切れる。

「ま、確かに……男から告白さ
れたことは、結構ある、かな」

 言って笑うと、後藤がガリ、
と達海の肩口に噛み付いた。
 達海が思わず「イっ……!」
と声を上げて後藤を見ると、い
つも穏やかな男はその眼にわず
かな怒りを湛えている。

「痕、残るよ、今の」
「見せつけだからな」
「寝てないって」
「キスは?」
「無理やり奪われたくらいは、
してないって言うだろ?」
「奪われたのか!」
「触れた瞬間、グーも出たけど」

 唇に乗った熱さを感じた瞬間
に達海の拳が相手の頬にめり込
み、ゴスッという鈍い音と共に
相手の男は達海の男らしさを思
い知ることになるのだ。
 達海がキスをされて嫌がらな
い相手は、今も昔もこの先も、
ずっとずっと一人しかいない。

「一回、奥歯ぶっ壊したことあ
ってさー。でもほら、相手も男
相手に手ぇ出して殴られて歯ぁ
折れました、なんて言いづらい
みたいでさ。治療費とか請求さ
れなかった」

 ニヒヒ、と笑うと、後藤は渋
い顔で達海の鼻先を軽くかじる。
 む、と音が出て、けれど後藤
はそんな達海にやっと微笑んで
くれた。

「お前のグーは結構痛いもんな」
「えー、お前殴ったことないじ
ゃん、俺」
「昔、お前の同期に聞いた」
「同期? 誰?」
「京都にいた奴」
「……あー、あぁ……え、いた?
いたかも……うん、多分いたな」

 よく覚えていないけれど、多
分いた。
 日本にいた頃から、達海は男
に狙われることが多かったので、
いちいち覚えていないだけだ。
 キスされそうになったことは
数知れず、あわや乱暴されそう
になったことも片手くらいは経
験済みだ。
 だが、達海は一度たりとも後
藤以外に赦したことはなく、か
つ、全てをひとりで切り抜けて
きた。
 要するに、相手が口外できな
いのをいいことに、暴虐の限り
を尽くして脱出、生還したので
ある。
 後藤はそんな達海の武勇伝を
人づてに聞いているらしく、安
堵と共に呆れを抱いたのだが、
達海は後藤に対する誠実さを優
先しての武勲なので、誇らしく
思いこそすれ、相手に同情した
ことは一度たりともない。

「お前、喧嘩の腕まで上げて、
いつ俺にお前を守らせてくれる
んだよ?」

 けれど、後藤が苦笑いでそう
言って、達海の耳朶を舐め、甘
噛みしたので、達海はパチリと
瞬いた。




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