Important Gift

□大空に向かって愛を叫べ
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「後藤さーん」

ガチャリ、とドアを開けた後にノックをして入って来たのは石神だった。

「達海さん見ませんでした?」

「順番が逆だろうが」

「そう?」

仏頂面で一緒に入って来たのは堺で、その後ろには苦笑する堀田の姿が見えた。

「少し前に赤崎達も来たが……見てないぞ」

あれから5分も経っていない。
そう返事をすると、石神は頭を掻きながら首を傾げた。

「んー、丹さんが隠れてる場所は何となく検討付くんだけど、達海さんがねぇ……」

「あ゙ぁ?」

「だったら丹さんを先に見付けましょうよ、ガミさん」

眉間のシワが更に深くなった堺を宥める様に堀田が二人の間に入り、石神の肩に手を置いた。
その様子に、達海の存在に気付いていたらしい赤崎が他の者にはバラしていないと思い、後藤は足に指で突いてくる達海に急かされるように口を開く。

「もうすぐタイムリミットなんだろ? 先に丹波を見付けた方が良いんじゃないか?」

「そうですよ」

「丹波の方が厄介だろうが」

付き合いの長い丹波の無茶ブリなんて、もう何度も見て来たのだ。
特に飲み会のノリでこられたら、それこそ大変な事になる。

「達海さんの命令だったら何でも可愛く思えるもんねー」

「可愛いって……」

「一見無茶苦茶でも、要は楽しんだモン勝ちみたいな感じばっかりだしな」

「堺さんまで……」

そこだけは意見が合致したらしい石神と堺が、珍しく頷き合う。
確かに達海の命令なら、出来れば個人的にしてもらえるなら嬉しいと思ってしまう人間ばかりだから、本気で嫌だと思う奴はいない。

「……いいのか? 時間なくなるぞ?」

後藤が時計を指差してやれば、三人は「あ」と声を上げた。

「おら。丹波の奴を捕まえに行くぞ」

「行きましょう、ガミさん」

「はいはーい。んじゃ、お邪魔しましたー」

堺にどつかれながら石神を先頭にベテラン組は事務所を出て行く。
そして、最後にドアを閉めようとした堀田が、

「達海さんに宜しく言ってて下さい」

と笑顔で言った。

「あ、あぁ」

反射的に笑顔を作った後藤だが、引き攣ってしまったのは自分でもわかる。
膝に重みが掛かって視線を向ければ、じとーっ、と見上げてくる達海の顔が。

「……お前さー、もっと上手くやれよ」

「バレていないから大丈夫だろ?」

「じゃあ、あいつ等の会話何なんだよ?」

「ハッタリ噛ましただけだろ」

そうは答えてみたものの。
後藤の演技が上手い下手の以前に、彼等は達海がココにいる事に気付いているようだ。
気付きながら、見付けようとはしていない。

「あーっ!!」

「丹さんはっけーんっ!!」

「残すは達海さんのみーっ!」

廊下から聞こえた声に「な?」と達海に同意を求めてみると、渋々といった態でまた机の下に頭を引っ込めた。



***



「どこ行きやがったんだよっ! うちの監督さんはよっ!」

スタッフが荷物を運ぶからと開けて行ったドアの向こうから、苛立った黒田の声がした。

「近すぎて見逃してるのかもしれないな」

「俺達の動きを見て移動してるかもしれないぞ」

黒田とは対照的に冷静な声は杉江で、楽しそうな声は緑川だ。

「もう時間ねぇっつーのによっ!」

その声につられて、後藤は時間を確認した。
残り時間は5分を切っている。

「黒田、お前そんなに達海さんの命令が怖いのか?」

「んなっ?! ちっ、違っ……っ! 面倒臭ぇって話っスよ!」

明らかにからかっている風の緑川と、ムキになって返す黒田のやり取りに思わず笑みが漏れる。
前を通り過ぎようとした杉江がそんな後藤に気付き、足を止めて「後藤さん」と声を掛けてきた。

「達海さん、どこに隠れてるか知りませんか?」

「あー、いや。昼に見たっきりだから」

本当は足元にいるのだが、バラしてしまったら盛大に拗ねてしまうだろう。
そんな事になれば、機嫌を取るのは大変だ。

「あとは事務所ぐらいだったんですがね。捜すの」

ニヤリと笑みを浮かべる緑川から、妙なプレッシャーを感じるのは気のせいではないだろう。

「だーっ、もう時間ねぇっ! おいっ、椿! 自慢の足で捜しやがれっ!」

「ひえぇっ?! はっ、はいーっ!」

イライラが頂点に達したらしい黒田が廊下の先に姿を現した椿に怒鳴ると、椿は今にも泣きそうな顔をしながら廊下を走る。

「後輩イジメはやめとけよ、クロ」

「どこがそう見えんだよっ! さっさと行くぞっ、コラァ!」

肩を怒らせてズンズン進んで行く黒田の後を、苦笑しながら杉江が追う。

「後藤さん」

パソコンに視線を落とした後藤は、声を掛けられまた視線を戻した。

「足、痺れてると思いますよ」

「−−え?」

「時間になったら返してください」

そう言って、緑川は笑顔を見せて去って行った。
彼等の声が遠ざかってから下を覗くと、「……痺れてねぇし」と達海が恨めしそうに見上げてきた。




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