Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【48】
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 達海は、後藤と村越の間に挟
まれて甘ったるい時間を過ごし
ていた。
 ジーノのマンションから帰還
したのはより近い村越のマンシ
ョンで、連れてこられてすぐに
玄関先で服を脱がされている。
 土間のところに脱ぎ散らされ
ているのは、達海のものではな
い服だ。
 赤崎に無理やり着せられた、
椿の私服。
 車に乗り込んですぐ、村越に
問われた。

「で、それは誰の服だ?」
「え……なんで?」
「達海さんの趣味じゃねぇこと
くらい、見りゃわかる。誰の服
なんだ。誰に買ってもらった?」

 ジーノのマンションにふたり
揃って顔を出した理由を、とに
かく達海に謝りたかったと語っ
た後藤と村越を許して、帰ろう
というので後藤の車に乗り込ん
で、クラブハウスに帰るつもり
だったのだが。
 まさか、こんな風に詰め寄ら
れるとは思ってはいなかった達
海は、後部座席の隣に座った村
越の言葉にキョトンとした。

「椿の服だけど」
「椿? なんで椿なんだ」
「えっと……後藤にムカついて、
世良とジーノのとこ行こうと思
って寮まで歩いて……そんで、
ジーノが」

 ジャージはナイ、と。
 危うく服を買われてしまうと
ころだったのだが、その前に赤
崎がセレクトしてくれたことを
告げると、村越が苦りきった顔
をした。

「え、なんでそんな顔?」
「達海、あのな。男が服を買っ
てやりたいなんてのは、どうに
かしようって気持ちの現れだろ。
なんとも思ってない相手のコー
ディネートなんか引き受けない
もんだ」

 後藤の指摘には、思わず声が
出た。

「冗談! 赤崎だよ!?」
「あのな。前に赤崎は、俺に向
かってあんたに惚れてる宣言し
たんだぞ」

 知らないのか、と思って、達
海は唇を尖らせた。

「それがいつかは知らないけど、
赤崎、丹波と付き合ってるぞ。
すっげぇラブラブなの」
「え、そうなのか? 意外だな」

 後藤は笑う。村越は、まだ胡
乱げな顔だ。
 だが、問題なのは赤崎ではな
いらしい。
 後藤が信号待ちの間に振り返
って、椿の服に袖を通している
達海の姿を上から下まで眺めて
ため息をついた。

「なんだよ、そのため息」
「いや……そういう格好してる
と、本当にかわいいよな、と思
って」
「かわいいっておかしくない?」
「最近、ジャージか試合のとき
のジャケット姿しか見てなかっ
たもんな……」
「ねぇ、聞いてる? かわいい
っておかしくない?」

 重ねて言い募る達海の抗議は
黙殺される。

「俺たちとお出かけ服着て外出
とか、滅多にしてくれないのに
……そういう服着てジーノと食
事かぁ……」

 若干肩を落とした雰囲気で青
信号を確かめ発進させる後藤に、
達海の唇が尖る。
 お出かけしてくれないも何も、
最近触れてもくれなかったのは
ふたりの方ではないか。

「着たくて着たんじゃないって!
なんだよ、どうしたいんだよ!」

 唇を尖らせて文句を言う達海
に、村越が切り出す。
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