Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【47】
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 達海と世良を乗せたジーノの
マセラッティが停まったのは、
落ち着いた雰囲気だがそう堅苦
しさのない店だった。

「イタリアン?」
「そう。でも、居酒屋的な感じ
だよ」
「居酒屋? ここがぁ?」
「リーズナブルなんだよ? で
もいいもの出すから、穴場なん
だ」
「王子のリーズナブルってどう
なんだろう……」

 世良の呟きは達海も思ったが、
入ってみると意外にも本当にリ
ーズナブルだし美味かった。
 飲み食いは普通に、実に滞り
なく進んだ。
 世良は大変賑やかで、ジーノ
はいまいち意味不明だったが、
楽しい夕食になって、達海はご
満悦である。

「さて、この後はどうしよう?」

 十時近くに店を出て、ジーノ
が尋ねる。

「まだ帰らなーい!」

 いい気分な達海が拳を突き上
げ、意外とザルらしい世良は首
を捻っている。

「達海さん、もしかして、酔っ
てます?」
「ん〜? ふふふ〜、酔ってる
よ〜?」

 言いながら世良にしな垂れか
かる達海を、ジーノがそっと抱
き寄せる。

「タッツミー、楽しい?」
「おーぅ、楽し〜い!」
「そう、よかった……もう少し
遊ぶ?」
「ちょ、王子っ!?」

 ジーノの問いに世良が慌てて、
けれどジーノは口許に人差し指
を当てて世良を黙らせた。

「それとも帰る? GMもコッ
シーも心配してるんじゃない?」

 足元の覚束ない達海はジーノ
に抱えられたまま、その言葉に
緩く首を振った。

「帰んない〜。いま帰ったらぁ
……もっとわがまま言っちゃい
そうだから……帰んないのぉ!」

 酔った達海など、ジーノも世
良も知らないはずで、思えば村
越でさえ知らないかもしれない。
 村越が入ってきた時には自分
の酒量を把握していたし、楽し
く呑めるようにもなっていた。
 だから、酔って手のつけられ
なくなった達海を知っているの
は後藤だけで、他の誰かに介抱
されたことはなかったのだが、
いまの達海にそんな判断力はな
い。

「……セリーももう少し付き合
って。こんな酔っ払い、ひとり
じゃ無理だもの」

 申し出に、世良が苦笑しなが
ら頷いた。

「どこ行くー……のっ!」

 車に乗った達海が尋ねると、
ジーノはわずかに肩を竦める。
 返答がなくても気にしていな
い達海は世良の肩に頭を乗せて、
フンフンと鼻歌混じりでご機嫌
だ。

「達海さん、それ、なんの歌っ
スか?」
「ん〜……? うん〜……わか
んない!」
「えぇっ?」

 苦笑する世良にも構わない達
海が口ずさむのは、よく聴けば
最近CMで流れている曲で、そ
るに気づいた世良も、その若干
音の外れた鼻歌に合わせて歌い
出した。

「賑やかだね」

 ジーノは多少苦笑混じりだが、
止めろとは言わない。
 だから達海はその調子の外れ
た歌を歌い続け、そのまま、と
あるマンションにたどり着いた。

「達海さん、降りられますか?」
「ん〜、うん、平気ー……どこ
ぉ?」
「僕の家だよ。少しはお酒抜け
た?」
「んー……」

 先程よりは足元のしっかりし
た達海は、閑静なたたずまいだ
が間違いなく高いだろうマンシ
ョンを見上げた。
 宵闇に電灯のオレンジ、昼間
なら白さが際立つだろう白亜の
城……達海の頭にはそんな風に
思える。

「きれー……」
「っスねぇ。さすが、王子のお
城」
「だよね! お城!」

 ねー! と笑う達海と世良に、
ジーノはそれぞれにコツンとゲ
ンコツをくれた。

「いってぇ……なにすんのぉ」
「もう、痛いような強さじゃな
いでしょう? 静かにしないと
ダーメ」

 叱られて、達海は唇を尖らせ
ながらもジーノの部屋に入った。
 思ったことは、やはり、城だ。
 とにかく広い。
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