Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【45】
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 後半戦の初戦である札幌戦を
終えた達海は、まるで花が咲き
誇るかのような空気をまとって
いた。
 鈍い若手あたりはなにが原因
なのかわからずただポワンと見
とれるばかりだが、見る者が見
ればわかるそれは、明らかに性
的な開花である。
 自ら望むことを覚えた達海が、
前の日にも散々恋人達と睦み合
ったというのに男ふたりの肌を
欲して宿泊先のベッドを今一度
ぐちゃぐちゃにしたなどとは、
椿あたりなら想像だけで鼻血を
出しかねないような話だった。

「お前の体、どんどん美味そう
になるなぁ」

 帰りの飛行機でもどこかうっ
とりとした顔つきで窓の外を見
つめる達海にそんなことを囁い
たのは笠野だ。
 達海は思い切り嫌そうな顔を
してから唇を尖らせた。

「それセクハラだろ、笠さーん」
「バカ、野郎同士でセクハラも
なにもあるか」

 ニヤニヤしながらの笠野は、
正直気持ち悪い。
 なにを考えているのか読ませ
ない男の内実など知らないが、
どうせよからぬことを言うに決
まっているのだ。

「で、ぶっちゃけどっちのがス
ゴイんだ」

 達海は、やっぱりか、と思い
ながら、笠野とは逆の方に顔を
向けて目を閉じる。
 二晩連続でふたりを相手にし
た体は満足感とは別の倦怠感が
あったし、そうでなくとも少し
疲れていた。
 思えば最近色々ありすぎてろ
くに休息を取っていない。
 後藤や村越と抱き合うことは
心地いいし安らぐが、肉体的に
は達海の方にやや疲労が溜まり
やすいと言えよう。
 触れれば先を求めたくなるし、
キスをすれば止まらなくなるの
は仕方のないことだが、ただで
さえいつも夜更かししている達
海だ。体が悲鳴を上げても仕方
あるまい。
 しかし、風邪など引いてまた
ぞろ後藤に叱られるのも面白く
ないので、達海はいつもならす
ぐに次の試合へと向ける思考を
切って、雲を真下に望みながら
眠りに落ちた。
 そして、あぁ、飛行機だけど
しっかり寝られたな……と思っ
て開いた目に飛び込んで来たの
は。

「……達海?」
「達海さん!」

 物凄く心配そうな、後藤と村
越の顔だ。
 それから、白い天井。銀色の
角がわずかに湾曲したレール……
医務室のカーテンレールのよう
な感じだ。
 達海はまだ半分落ちている瞼
でうとうとしながら、ゆっくり
と瞬いた。

「ンあ……、なに……?」

 掠れた達海の声は、完全に寝
起きのそれである。

「大丈夫か? 怠いか?」
「うん……? なにが?」
「なにがって……、」

 覗き込んでいる後藤が眉根を
寄せて言葉に詰まり、達海は体
を左に九十度回転させた。
 寝返りを打ったのだ。
 しかし、達海はそこで初めて、
自分が寝ているのだと気づいた。

 ――変だね、俺、飛行機のシ
ートで寝てたはずなのに。

 パチ、と瞬いて、達海は自分
の左腕に針が刺さっていること
に気づいた。
 そこから延びた管、その先に
は……点滴のパック?

「え、なんで? ここどこだ?」
「病院だ。空港から直で運び込
んだ」
「なんでっ!?」

 ビックリして一気に目が覚め
た。
 物凄く驚いた。
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