Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【44】
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 清川に手を引かれ、ずっとふ
わふわしたまま戻ってきたホテ
ルのエントランス。
 そこに、触れたいふたりの姿
を見つけて、達海は思わず清川
の背中に隠れた。

「達海さん、ほら、後藤さんと
村越さん待ってますよ。行かな
いと」
「やだ!」
「もー、なんでっスか」

 盾にされた清川が笑いながら、
けれど困ったように言って、達
海は顔を見られないように背け
ながら小さく呟いた。

「まだ無理……」

 ――やらしーこといっぱいし
て欲しい、なんて、やっぱりす
げー恥ずかしいし。

 世良ではないが、抱いてくれ
などとは簡単に言えるものでは
ない。
 困り果てて拗ねたフリで俯く
達海に清川が柔らかく笑って、
繋いだ手をきゅっと握ってくる。

「大丈夫ですって。有里ちゃん
に聞いたっスよ、監督は王様な
んスよね? 王様は王様らしく、
偉そうに欲張るのが正しいっス
よ……ほら、お迎えです」
「……、」

 間近にやってきたふたりの姿
を目の端に捕らえるだけで体が
切なく疼いて、心臓が壊れそう
なほど脈打つのに、とても大丈
夫とは思えない。

 ――待ってよ、まだ心の準備
が……!

 近づく足音に固く目を閉じた
達海の耳に、ふわりと甘い音が
響いた。

「大丈夫か、達海さん?」

 村越の、心配そうな声。

「顔、真っ赤だぞ、達海」

 後藤は少し、笑みを含んでい
る。
 声が響くだけで、まるで聴覚
を犯されているかのような感覚
を味わった。
 耳の後ろから首筋にかかるく
らいの辺りがゾワゾワと粟立ち、
歩いてくる中でようやく引きか
けていた欲望の波が先程よりも
強く打ち付けてくる。

「き、清川、助けて、」
「えー? もー、なんでそんな
隠れるんスか、達海さん! て、
こら椿お前は達海さん触んな!」

 清川の背中に隠れて真っ赤に
なっている達海に椿の指がかか
って、それを見咎めた清川の鋭
い叱責が飛ぶ。

「ス、スンマセン! あんまり
にも達海さんがかわいくて!」

 ピシッと背筋を伸ばして言っ
た椿の言葉に、相変わらずバカ
なコだね、と思う達海は、清川
の服をぎゅうぎゅうと握り締め
ながらきっとすごく赤いはずの
耳をふたりに見られていること
が恥ずかしくてならない。

「ごめんな、達海。さっきのこ
と、怒ってるのか?」
「……」

 さっき、という後藤の言葉に、
そういえばジーノとの会話を盗
み聞きされたのだと思い出した
が、正直そのことに怒る余裕は
まったくなかった。
 恥ずかしくていたたまれなく
て、とてもではないが話をする
どころではないのだ……いま、
この瞬間も。

「……ない」
「ん?」

 後藤が柔らかい声音で尋ね返
してくるのが、すぐ側で聞こえ
る。
 躊躇いながらも意を決して目
を開けると、予想通りの距離に
達海を覗き込む後藤の顔があっ
た。

「……怒って、ない」
「盗み聞きしたの、許してくれ
るのか?」

 問いにコクンと頷くと、後藤
はゾクゾクするような気持ちの
いい笑みを達海に向けてくる。

 ――いっつもなら、頭撫でて
くれるのに。

 そう思えば自然に唇を尖らせ
てしまうが、それに苦笑を返す
後藤はそれでもいつものように
触れてはこない。

 どうして? と思ってから気
がついた。
 達海が言ったのだ。
 三日間は触るなと。

 ――やだ、触ってよ、後藤、
村越……!

「……達海さん?」

 恥ずかしいから、自分からは
触れられない。
 けれど、いつもはふたりから
触れてくれるからそれが当然だ
と思っていたのに、それは違う
のだと思い知らされて……達海
は知らず、泣き出しそうな顔に
なってしまう。

「どうした、具合でも悪いのか
……えっ、」
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