Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【41】
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 ジーノと達海のキスに、思わ
ず声を出した。
 盗み聞いているという後ろめ
たさを一瞬忘れての行動に、ま
だまだだな、と後藤がため息ま
じりで呟いて、達海は一言、最
低だと言い残してホテルを出て
行った。

「追うな、村越」

 何故か柔らかな笑みを浮かべ
て余裕をぶちかましている後藤
に、ジーノが肩を竦める。

「嫌だな、GMはなんでそんな
に冷静なのさ」
「そりゃあ、俺があいつとつる
んでた期間がどれくらいあった
と思ってるんだ。達海の表情が
どうして欲しいときの顔なのか
くらい、ちゃんと知ってる」

 村越ですら知らない達海の話
をされるのは、正直面白くない。
 そもそも、様子を見に行こう、
などと言って盗み聞きを誘った
のは後藤で、村越は止めようと
何度も止めた。
 止め切れなかった時点で同罪
なのはわかっているが、なにや
らこの男、先日から本気で面倒
だ。
 もちろん、達海とは違った意
味で。

「それにしても、お前のキス、
威力絶大だな。あれは完璧に覚
えたぞ、達海は」
「なに、厭味? せっかくタッ
ツミーが僕の気持ちを理解して
くれたのに、一瞬で持って行っ
たくせに」

 ジーノが形のいい眉をひそめ
て後藤を睨み、我慢しきれなか
った村越をチラリと見る。
 達海が、こんな色男の本気を
ぶつけられてまで自分を……後
藤を含めてでも……選んでくれ
るのなら嬉しいには違いないが、
もちろん安心などできるもので
はない。

「それにしても、まさか達海の
悩みがなぁ」
「……嫌だな、GM。にやけち
ゃって気持ち悪いよ」

 ジーノが眉をひそめてそう言
って、後藤はふかりとした柔ら
かな椅子の背もたれに身を沈め
てやに下がった笑みを浮かべた。
 達海が見ていたら間違いなく
唇を尖らせて不機嫌さをあらわ
にするだろうが、いまは村越が
険しい顔で後藤を睨むばかりだ。

「仕方ないだろ? 達海がかわ
いいんだから」

 しかし、後藤はまったく悪び
れもなく、盗み聞きの後ろめた
さも感じさせない様子でジーノ
に尋ね、いつもは自分のペース
を崩さないジーノが思い切り顔
をしかめた。

「コッシー、GMってこんな人
だったっけ?」
「俺が知るか!」

 ジーノの問いに思い切り苦る
村越を、後藤が軽く笑う。
 後藤は、村越が達海の様子を
心配しているとわかっているは
ずなのだが、なぜかその点には
触れない。
 焦れた村越は後藤を睨みつけ
ると、伝票を引ったくってティ
ーラウンジを出た。
 追うなと言われて追わなかっ
たので、達海がどこへ行ったの
かはわからない。こういうとき
に携帯電話を所持していてくれ
れば、と思う。
 もちろん、そんなことを言っ
ても仕方がなく、村越は落ち着
かない気分のままエレベーター
に乗った。

「……そういや、キスしか言わ
れたことねーな」

 誰もいない個室という状態の
エレベーター内。
 ジーノと達海の会話を思い出
しながら、村越はひとりごちた。
 抱き締めてキスをして、肌に
触れる。繋がる段階では完全に
村越のペースで、達海は一度の
セックスで感じすぎてクタクタ
になってしまうため、いままで
達海から直接的に求められたこ
とはなかった。
 逆に村越から二度目、三度目
に及ぼうとすれば、体がつらい
から嫌だと繰り返す。
 唯一、もっと、とねだるのは
いつもキスで、キスだけなら貪
欲な達海の肌に触れた途端、少
しばかり体を強張らせる様は、
いつも雄の本能を掻き立てた。
 それなのに。

「……したい、って?」
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