Silent Sweetheart 【派生】

□Ribbon Day's 【02】
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 赤崎が少し淋しげな顔をする
のに後ろ髪引かれる思いで手を
振って、丹波は通いなれた道を
歩いていく。
 我ながらかなりお節介だと思
うし、実際、相当ウザがられる
のは確実だ。
 どういう反応をするのか……
きっと、眉をひそめ、口を引き
結び、鋭い目つきをさらに厳し
くして睨んでくるだろう。

「怒るだろうなぁ」

 想像するとおかしくて仕方な
い。
 だが、まがりなりにもカワイ
イ後輩がなにやらお悩みの様子
とあっては世話も焼きたくなる
というものだ。
 特に、悩みの種である同期の
背中を押した身としては。

「って、あれー? 石神がいる」
「なんだよ丹さん、いちゃ悪い
わけ?」

 堺の部屋にたどり着くとそこ
にはすぐ下の後輩がさも自分の
家のようにくつろいでいて、さ
すがの丹波もこんなシチュエー
ションで「よっ、堺! セック
スしてるっ?」とは切り出せず、
肩透かしを食らった気分で冷酒
を煽る家主を見た。

「なんだ? 最近は呑みにくる
頻度が減ったと思って喜んでた
のに……もうフラれたのか?」
「られてねーよ! お前マジで
性格悪ぃよな!」

 悪態をつくと、堺はしれっと
無視を決め込んだ。
 いつものメンバーにはひとり
足りないが、お決まりの呑み、
約束などは特にせずに訪ねて行
っても、案外優しくて面倒見の
いい堺は嫌な顔をしつつも、酒
やら現役を退いたら小料理屋で
も開けそうな腕前の逸品やらを
振る舞ってくれる。
 ふと、世良はもうこの部屋に
上がっただろうか、と思った。

「……丹さん、なんでキョロキ
ョロしてんだよ? 初めて来た
部屋みたいにしてるぞ?」

 石神のからかいに、軽く笑い
ながら手を振る。
 世良の痕跡を探しているなど
と知られれば間違いなく叩き出
されるに違いない。
 ほどなくして諦めたものの、
堺はきっとまだ、世良を部屋に
は上げていないのだろうという
気がした。
 なにしろ堺は丹波と違って慎
重なのだ。間違っても悪戯心で
肉体関係を持つようなことはし
ない。もちろん、酒の上での過
ちも存在しない優等生だが、恋
愛に関してはかなり不器用と言
っていいだろう。
 これまで堺がカノジョとダメ
になるときは、決まって堺の口
下手や愛想のなさが原因だった。
 女の考えてることはわからね
ぇ……と、別れる度に聞かされ
てきた丹波は、こんなに想って
もフラれるんなら、俺には真剣
なオツキアイとか絶対無理! 
と思っていたものだ。
 いま考えると、きっとそれは
丹波自身が、夢中になるほどの
恋愛をしていなかったせいなの
だろうと思う。
 赤崎を想い、想われて、やっ
と自分の居場所を見つけたいま
なら、あの頃の堺がどういう心
境でいたのかわかる気がした。

「に、しても……ETUヤバく
ない? なんか気ぃついたらや
たらと男同士でくっつきまくっ
てんじゃん。杉江と黒田は前か
らだとしても、俺らまでなにや
ってんだか」

 アハハ、と笑う石神に、堺が
思わず苦笑を返した。

「うっかりしてたよな」
「えー、堺さんがうっかりとか
言うのは意外」

 エイヒレをあぶったものをか
じりながら酒を入れる石神の言
葉通り、丹波も意外だった。
 だが、きっと今回の恋は予想
外の出来事だったのだろうと思
えば、確かに「うっかり」なの
かもしれない――それは丹波に
とっても。

「俺的には、丹波が赤崎とって
のが一番驚いたんだけどな」
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