Silent Sweetheart 【派生】

□Ribbon Day's 【01】
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 膝に顎を乗せて崩れた体育座
りで、世良は借りてきたAVを
眺めていた。
 部屋の小さなテレビ、小柄だ
が胸が張った女優がアンアン言
ってる映像を、ベッドの上で微
妙に虚ろな目で見ているという
のはどうなのか……と、自ら思
う。
 某レンタルショップから借り
てきたのは以前に若手連中で盛
り上がったDVDなのだが、何
故かいま見てもまるで興奮しな
い。
 体になんの変調もきたさない
ままラストまで見て、映像が止
まったのでもう一本のDVDを
デッキに入れた。
 流れてきたのは、自分と変わ
らないくらいの年齢の男が複数
の男と絡み合うものだ。

「……別に、どうってわけでも
ないなぁ」

 恥を忍んで借りたゲイのAV、
男同士での情事を目にしても、
嫌悪感は特にない。だが、だか
らといって興奮したりはしなか
った。
 それなら、達海が艶っぽい表
情をするときの方がはるかにド
キドキする。
 三十代半ばの男とは思えない
ような無邪気さと、だだ漏れの
色気。きっと、このDVDに出
ているネコ役の男のように、恋
人に抱かれているのだろう監督
の姿を想像すると下腹部が疼い
た。
 はっきりさせたことはないが、
達海はおそらく後藤と村越、両
方と関係を持っている。両方が
恋人で、どちらにも抱かれてい
る達海は間違いなく男を引き付
けて、欲望を煽る存在だ。
 だが、それはどう考えても達
海が持つ天然要素のひとつなの
であって、世良が真似をしよう
と思ってできるものではない。

「世良さん、飯食い行きますよ」
「うわーっ!?」

 悶々としているとノックもな
しにドアが開いて、世良は慌て
てリモコンを探す。

「……なにしてんスか」

 呆れたようにドアのところで
もたれ掛かっているのはひとつ
年下の後輩、赤崎だ。生意気で
手に負えない、いま売り出し中
の若手。
 椿共々、達海が見出だした選
手である――自分もだが。

「だ、って! お前が勝手にド
ア開けっから!」

 テレビの前に立って映像を見
せないようにする世良を、赤崎
が心から呆れ果たしたように眺
めた。

「堺さんとのプレイ、マンネリ
化でもしてんスか」
「はっ!? なにが!?」
「なんなら、熱感ローションで
も貸しましょうか。俺、道具と
か使われんのあんま好きじゃな
いんで持ってないスけど」

 話についていけない。
 いたって平然と言ってのける
赤崎の言葉は世良にとっては呪
文と同じで、見事に石化した世
良は口を挟むことができない。

「でも、この短期間でマンネリ
化って、堺さん意外と積極的に
ヤってんスね。付き合い始めた
時期、俺が丹さんと付き合い始
めた頃と変わんないスよね?」
「……、」

 呆然とする。
 まだDVDを止めていないの
を忘れてまじまじと赤崎を見て
しまった。

「なんスか」
「お前、丹さんと付き合ってん
の?」
「……は?」

 会話が噛み合っていないと赤
崎が気づくまでに数秒。
 自分が激しく勘違いをしてい
ると気づくまでにさらに数秒を
要して、赤崎が思い切り眉間に
シワを寄せた。

「えっ、なに、俺と堺さんが付
き合い始めた時期と一緒くらい
なの? マジで? そうなの?
お前と丹さんて……えっ、ロー
ション?」
「チッ……マジかよ」
「えーっ、そうなのっ! どっ
ちが女役? お前、それとも丹
さん?」

 興味津々で尋ねると、テーブ
ルの上に乗っていたリモコンを
取った赤崎がDVDを止めて世
良を睨んだ。

「あ、でも、道具って……使わ
れんのが嫌っとことは、お前?
お前がされる方? マジで? 
うわ、丹さんすげーっ!」

 この、最高に生意気で自信過
剰な赤崎を抱けるとか凄すぎる、
と本気で感心してしまう。
 世良は間違っても赤崎に欲情
などしないし、頼まれても抱け
ない。まぁ、女のコとの経験も
乏しい世良では男を抱くなどハ
ードルが高すぎるわけだが。

「うっさいっスよ! なんだよ、
堺さんから聞いてんのかと思っ
てたのに!」

 興奮気味になる世良を怒鳴る
赤崎は、よほど不覚だったのだ
ろう。悔しそうに肩をいからせ
て目を吊り上げた。

「おーい? 世良呼びに行くの
にいつまでかかってんだよ、お
前」
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