Silent Sweetheart 【派生】

□Next Day >> Diamond Message
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 堀田と、した。
 何故か自分が抱かれる側だっ
た。
 いや、実際、堀田のことは好
きでも抱きたいかと聞かれたら、
積極的に抱きたいかどうかは微
妙だ。
 今でも抱きたい相手は達海で、
それは変わらない。もしも達海
が、自ら望んで石神に抱かれた
いと言うなら応えると思う。
 だが、自分から盗りに行こう
とは思えなかった。
 正直かなり面倒臭い。
 達海がではない、あの二人が、
だ。
 GMとキャプテン。地位も実
力も石神より上で、何より達海
からの思われ方が半端ではない。
 流されるように交わしたキス、
触れた肌の感触。
 達海の心がぎゅっと閉じて、
同時に自分にも堀田の顔がチラ
ついたあの瞬間。
 興奮していたし、抱きたかっ
た。
 決して冷えたわけではない体
を達海に重ねなかったのは、思
っていた以上に自分が堀田を愛
していると気づいたからである。
 予感はしていた。
 堀田も達海を好きなのだとだ
と聞いた時に感じた不快感は、
紛れも無く嫉妬だった。
 堀田は俺だけ見てればいいの
に――そう思った。
 そして堀田はきっと自分のこ
とが好きだろうと漠然と信じて、
だからこそ、格好悪く愚痴をこ
ぼすところなど見られたくはな
かったのに。全てを見透かした
堺が堀田を呼んだりするから、
咄嗟に潰れたフリをしたし、酔
ったフリもした。
 まるきり酔っていなかったわ
けではないが、潰れるほど呑ん
ではいなかった。
 結果、堀田が水を飲ませる為
に重ねた唇も、柔らかく優しく
撫でてくれる掌も、一度出て行
ったこともくれた言葉も匂いも
熱も、なにもかも全てを覚えて
いる。
 まだ隣で眠っている堀田の、
しっかりとした造りの顔をそっ
と撫でて、石神はもう一度ベッ
ドに潜り込んだ。
 そろそろ堀田の目が覚めそう
だと思ったからである。
 自分が起きていたら、きっと
堀田は考える暇を失くしてしま
う。
 夕べの行為はあくまで咄嗟の
出来事で、発した言葉も売り言
葉に買い言葉っぽかった。
 もし、堀田が起きたとき頭を
抱えて青ざめ、夕べと同じよう
に出て行ったらその時は、なに
もかも忘れたフリをし通せばい
い。
 きっとそうなる。
 堀田は石神が言ったことをな
にひとつ信じていないのだ。
 石神が酔っていると思って、
端から端まで戯言だと思ってい
る。
 こんな短時間で二回も失恋す
るとは思わなかったが、追い縋
って関係を強要するような真似
は苦手だ。
 なにより、サッカーに影響が
出ない範囲での失恋はここが最
終ラインだろう。
 そんなことを考えつつ目を閉
じる。
 せめて堀田が起きるまでこの
ままでいよう、と思った。




「……思ったのに、なんで眠っ
ちゃったんだか」

 堀田のいないベッドの上で、
石神は後ろ頭を掻いて苦笑しな
がら呟いた。
 察するに既に昼、カーテンの
向こうはずいぶんと暑そうだ。
 どうせ今日はオフだし寝てい
ても構わないのだが、せめて堀
田が去るところは覚えておきた
かった。
 だがまぁ、眠ってしまったも
のは仕方ない。
 堀田と寝たのも、一度きりと
思えば大切な思い出だろう、と
言い訳がましく考えながら寝室
を出た。

「……、」
「なんだ、起きたのか。昼にな
ったら起こそうと思ってたんだ」

 堀田が、いた。
 昨日の服のまま、ソファに腰
掛けて新聞を広げている。
 石神は唖然としながら、じっ
と堀田を見つめた。

「なんでいるんだ、お前」
「なんでって、石神さんが呼ん
だからだろう?」

 なに言ってるんだと言いたげ
な堀田に、内心の「?」マーク
はますます増えていく。

「いや、そうじゃなくてだな。
勢いでヤった相手の側にずっと
いたりするタイプじゃないだろ、
堀田くん」

 そういう気まずい空気やら雰
囲気やらは苦手なはずだ。
 石神は十分それを理解してい
るし、だから今回もそうなのだ
と思っていたのだが。

「やっぱり酔ってなかったな」
「ん?」

 困惑気味な石神を眺めた堀田
が新聞をきれいに畳んでラック
に入れて、突っ立ったままの石
神に微妙な笑みを見せた。

「とりあえず先に風呂入ってき
てくれ。結構ギリギリだ」
「なにがギリ……あ、そうか」

 てっきり堀田はいないと思っ
ていたのであまり考えの内にな
かったのだが、石神は堀田に抱
かれたときのまま、ようするに
素っ裸なのである。
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