Silent Sweetheart 【派生】

□One Day >> Redzone Trial
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 まさかまさか、堺から激励さ
れるなどとは思わなかった。
 赤崎と寝ていると言ったとき
の反応は予想の範囲内だったの
だが、まさか細かな心情を察す
るくらいに恋愛の勘が戻ってい
とは。本当に、意外すぎる。
 何かにつけて堺さん堺さんな
世良の気持ちを察していなかっ
たくせに、生意気な奴だ……そ
う思いながらも背中を押された
のは事実で、寮に戻る最中に、
番号だけは知っていたがいまま
で一度だってかけたことのない
名前を呼び出した。
 無機質なコール音が、一回、
二回、三回……七回目で留守電
に切り替わる。

「お楽しみの最中にごめんね、
王子ー。赤崎のことなんだけど
さぁ、俺がもらうから、よろし
く頼むわ。以上!」

 夜道を歩きながらのそんなメ
ッセージ。
 さてどんな反応をするかと思
っていると、着信音が鳴った。

『なんスか、いまの!』
「んあ、赤崎? なんだ、王子
の今日の相手はお前かよ」

 赤崎とジーノが逢っているこ
とについて、いまは何も言うま
い。これから先はともかくだが。

「つーかお前、まさかヤってる
最中にかけてきてるわけじゃね
ぇだろうな? ヤだぞ、いくら
なんでも、王子に喘がされてる
声聞かされるプレイとかさー」
『バカだろ、あんた!』

 怒鳴る感じからすると、最中
ということはないようだ。

『なに考えてんだよアンタ突然
王子にあんな宣言するとかあり
えねーだろっつーかもらうって
なんだもらうって物か俺は!?』

 ずいぶん興奮している様子の
赤崎は、一息でそこまで叫んで
から呼吸を整えに入る。

「ギャハハ、すっげー肺活量!
さすがに若いね、お前。でもい
きなりそんな沸騰したら血管切
れんじゃね?」
『んなっ……!』

 ブチ切れ寸前の赤崎の声がそ
こで途切れて、わずかなノイズ
の後に聞こえてきたのは携帯の
本来の持ち主だ。

『ちょっと、僕の電話で痴話喧
嘩とか、止めてくれないかな』
「え、痴話喧嘩ってほど実りあ
る会話だったか、いまの?」

 呆れと多少の興味に彩られた
優雅な口調に返すと、ぎゃーぎ
ゃー騒ぐ赤崎を制しているらし
いジーノは軽くため息をついた。
 やれやれ、とでも言いたげだ。

『あのね、そもそも僕にはザッ
キーの所有権を争う理由がない
んだけど?』
「あーまー王子にはないよな。
お前それでいて意外と一途みた
いだし?」

 本当に意外な話だが、どうや
らジーノは本気で達海を狙って
いるらしく、達海を中心にした
恋愛の戦場、その前線に立ちは
だかるツートップ、キャプテン
とGMを出し抜く機会をひそか
に伺っているフシがある。
 赤崎のような稚拙なアプロー
チではなく、じわりじわりと達
海に自分という存在を認識させ
ていくやり方は、三十も半ばに
なった達海に地味な効果をもた
らしているように見えた。
 少なくとも、最近の達海はジ
ーノに触れられるのを嫌がるこ
とが少なくなった気がする。
 まぁ、恋愛感情が育っている
かどうかは別にしてだが。
 そもそもあの二人から奪える
などとは思えない。

『だったらなんで僕に宣言する
のさ。さっきからザッキーが狂
犬病にかかってるみたいにうる
さいんだ、堪らないよ』
「だってそこは、赤崎抱いた男
には釘さしとかなきゃさ」
『へぇ、驚いた。たった一回の
セックスに気づくなんて、意外
と本気なんだね』

 当たり前だ。王子と同じソー
プの匂いをさせた赤崎に気づい
たとき、本当は思い切り問い詰
めたかった。
 自分以外の男とヤるなんて許
さないと、そう言ってしまいた
かったのだ。
 自分が蒔いた種に絡め取られ
て本気になったバカさ加減を自
覚していなければ、赤崎にそれ
はそれは無体なことをしただろ
うと思う。
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