Silent Sweetheart 【派生】

□One Day >> Sugar Voice
1ページ/4ページ

「で、お前はどうなのよ、堺?」

 荒れる石神を送り出し、やれ
やれとソファに戻ると同い年の
男がニヤニヤしながら尋ねてき
て、堺はなんの話かわからなか
った。
 ……正確にはわかりたくなか
った。

「世良と上手くいってんのか?」
「わけわかんねぇこと言うんじ
ゃねぇよ」

 思ったとおりの勘繰りに苛立
ちながらビールを取りに行く。
 堀田には呑んだと言ったが、
実は一滴も呑んでいなかった。
 ちなみに丹波は当然ながら呑
んでいる。

「達海さんのこと好きだけど、
どうこうしたいって好きじゃね
んだろ? そういう相手なら世
良ってことで、白状しろよ」
「バカか。そういうお前はどう
なんだ」

 呆れ果たして言うと、丹波は
なんのてらいもなく笑う。

「俺いま、赤崎とヤってるよ」

 ぶふっ! と吹いた。
 ダバダバになる口許を拭って
丹波を凝視すると、堺の反応に
大笑いしている。

「お前、いつからだ!」
「えーと、結構前じゃね?ほら、
イタズラでキスマークつけてや
ったつった日あったじゃん。あ
の次の日から、結構な頻度で抱
いてるぜ」
「お前……! 本気か?」
「うん? うーん、セフレっつ
ーの? 最近じゃあいつ、自分
から抱かれにくるんだぜ。かわ
いーったらねぇよ」

 あの赤崎が、自ら望んで丹波
に体を開くところを想像……で
きない。妄想癖などない堺には、
考えの及ばない時限の話だ。
 頭が痛くなってきた。

「……赤崎はてっきり、達海さ
んのことが好きなんだと思って
たが……抱かれる側だったのか」
「気持ちいいことに興味ある年
頃なんじゃね? なんかわかん
ねぇけど、王子とヤってからし
ょっちゅう俺んとこくるんだよ
な、あいつ」
「ゴホッ……ぁあっ!?」

 またむせた。
 王子と赤崎が。
 いったいどうなっているのか、
ETUは。

「なんっ、おまっ……いやそれ
より、赤崎は大丈夫なのか!」
「ギャハハっ、堺ちょーウケる!
 なにその反応!」
「やかましいっ!」

 堺は自分を、自分で言うのも
なんだが真っ当な感覚の持ち主
だと思っているし、丹波のよう
にライトな付き合いを短いスパ
ンで繰り返すような芸当は苦手
だ。
 特に三十を目前にした辺りか
らは慎重さと奇妙に冷めた感覚
が増して、若い頃の勢いやら無
謀さはストックが尽きた。
 だからわからない。
 まだ石神の心理を察する方が
楽だ。
 あれで意外と繊細な部分のあ
る石神はどこか達海にも似て、
自分の世界を確立している。
 今日の行動も、堀田を愚痴の
相手に選ばなかった訳も、堺か
ら見ればいかにも石神らしい。
 だが、三十すぎても落ち着か
ないこいつの頭の中は全くもっ
て理解不能だ。

「お前……チームメイトとセフ
レになって、居心地悪いとか思
わないのか」
「別に? むしろ、杉江と黒田
みてぇにベタベタで、もし別れ
でもしたらサッカーにも影響出
そうな付き合いの方が無理」

 けろりと言う神経は束ねたマ
イクロファイバー並の図太さだ
ろうと思う。
 そのくせ、堺には世良との関
係を進展させろとしつこく絡む
のだからどうかしている。
 堺はビールをぐっと煽って、
四分の一ほど残して缶を置いた。
 もう呑む気もなく、酒気に流
される気もないのでひとつため
息をつく。
 そんな堺に、丹波は意味不明
なことを言うのだ。

「俺よりお前だろ? どうなん
だよ。緑川さんとかに持ってか
れてもいいのかよ?」
「なっ――なんでそこで緑川さ
んが絡んでくんだ!」

 怒鳴ってしまってから、ハッ
とする。
 案の定丹波はニヤーっと笑っ
た。

「ヒヒヒ、焦ってる焦ってる!
やっぱりな、このネタは強烈だ
と思ったんだ、絶対! 最近、
世良っちってば緑川さんに餌付
けされてんだぜ。単純わんこだ
からフラフラ〜っつって懐いて
んぞ?」

 だからなんだ俺には関係ない
――とは、何故か言えなかった。
 イライラ……いや、ムカムカ?
してくる。
 気分が悪い。
 同時に果てしなく下らないと
も思ったが、聞き流せない自分
が愚かしいと思った。
 緑川が世良に絡んだからなん
だと言うのだ。
 確かに達海を相手に真剣な色
恋など夢見ているわけではない
し、それは叶わないものだと早
々に割り切ってもいる。
 もし達海を抱ける機会があっ
たなら、堺は自分がヘタレるに
違いないと知っていた。肌には
触れず、抱きしめるだけでキス
もせずに終わるだろう。
 満足させられるかどうかは別
としてだが、自分でも石神でも
なく、達海相手なら実は堀田辺
りが抱けてしまいそうな気もす
る。
 そういう対象としての達海は
高嶺の花すぎるのだ。
 いや、だからなんだ、と心の
中で自分を嘲る自分がいる。
 言い訳か、それは――?
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ