Silent Sweetheart 【派生】

□Silent Sweetheart 【13.8】
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 今日は椿がめためたにダメだ
った。まぁ、ムラっ気の多い椿
は、松原に怒られようがなんだ
ろうがいつものことなので気に
しない。
 黒田の動きに若干キレがない
のは、あいつ相手によくそんな
気になれるよ、と感心するばか
りの杉江がナニやらヤったんだ
ろうから、こっちも全然気にす
るもんじゃない。
 逆に世良は朝一でむくれてた
わりに堺の言葉ひとつで異様に
テンションが高くてうるさいけ
ど、あいつなりにチームのこと
を考えているとわかったのはち
ょっと収穫だった。
 となると問題は、だ。

「なー、赤崎の奴、なんかあっ
たのか?」
「石神さん」

 堀田に尋ねながらも、石神は
丹波がやけにニヤニヤしている
のに気づいている。
 若手をからかうのはベテラン
の特権とはいえ、生意気で口の
減らない赤崎をあそこまでへこ
ませるなんて一体なにをしたの
か。

「くだらないことなんだ」

 堀田が軽くため息をつきなが
ら、夕べ呑んで帰った後の話を
し始める。
 なるほど、たしかにくだらな
い。

「早く悪戯だってばらしてやれ
よ。いくら練習だって、調子悪
いのが三人もいたら調子狂うだ
ろー」
「あのな、ばらしたら丹波さん
からヤキいれられるのは俺なん
だぞ、石神さん」

 そう言った堀田のここまで嫌
そうな顔は近年ではちょっと珍
しい。

「あーまー、丹波さんのヤキっ
つったら容赦ねーもんな。危う
く掘られかけたりとかな」
「冗談がいつの間にか本気にな
るような人だから。赤崎にはか
わいそうだけど、もう少し様子
見だろうな」

 丹波が赤崎を弄る理由はおそ
らく夕べ話していた中身が関与
しているだろう。
 大元の原因は、我らが監督、
達海だ。
 手が届きそうで届かないあの
男。
 酒の席、一度でいいから相手
をしてみたいと軽い口調で口に
してみたら予想外に反応したの
は堺だった。

「一度っきりで手ぇ引けるほど
スカスカな中身だったら、誰も
あの人に狂ったりしてねぇだろ」

 などと、暗に自分も達海に狂
っていると吐いた堺は思いの外
真剣で、間男くらいなら狙って
も許されそうかも、などと思っ
ていた石神に刺さったものだ。
 てっきり丹波あたりが悪乗り
して同意してくるかと思ってい
ただけに、余計である。
 とはいえ、後藤、村越両名に
抱かれている達海を真剣にモノ
にしようとするなら、一体どん
な手管を使えば確実に落とせる
というのか。
 さすがにこればかりは適当に
いって玉砕した場合のリスクが
でかい。なにしろ達海は監督だ。
しかも、GMとキャプテン、両
方を骨抜きにしている。下手を
打ってETUにいられなくなる
のは勘弁願いたい。
 そんなことをぼんやりと考え
ていた石神に、堀田は小さくた
め息をつき、丹波は焼鳥にかふ
かふとかじりつきながらなるほ
どね〜、と呟いた。

「達海さんてなんであんなに人
たらしなのかと思ったら、無防
備なくせにどっかガード固いん
だよな。アンバランスっつーか
さ、年上って気がしないときあ
んじゃん」
「あー、あるある」
「なんかかわいいっつーかさ、
そういうとこが。抱いてみたい
って思うんだよなぁ。でも最近、
若手まで軒並みイカレてんじゃ
ん。世良とかはまだ懐くって感
じで可愛いげあっけど、赤崎あ
たりは、なぁ?」

 丹波が堀田に顔を向けると、
赤崎の動向を思い出しているら
しい堀田は大して表情変えずに
答える。
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