Silent Sweetheart 【派生】

□Silent Sweetheart 【番外編 02】
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 達海はピラリと写真を取り出し
た。
 一枚はルーキーの自分が後藤に
甘えている写真。
 そしてもう一枚。

「もー……俺って馬鹿?」

 広報から奪った二枚の写真。
 どちらも当時の達海が物凄く気
に入った一枚で、そしていまから
思うとその頃からすでに、達海の
気持ちは固まっていたのだろう。
 この男が好きだ、それはあまり
に鋭すぎる直感だっただけに、自
分自身で気付けなかったのだ。
 だからこの歳になってから、あ
たふたする羽目になる。

「隠しとかなきゃなぁ」

 呟いて、達海は取り敢えず二枚
の写真を戦略ノートの中に挟み込
んだ。




 ルーキーの年、達海は後藤にべ
ったりだった。
 笠野に連れられてやってきたグ
ラウンドで、誰か気になる選手い
るか、と聞かれて答えたのが背が
高くて見るからに爽やか好青年っ
ぽい、どちらかというと普段の達
海なら近付きたくないタイプの男
で、人当たりの良さそうな見た目
同様、柔らかくて実直なプレイが
目を引いたのだが、こいつがとん
でもなく厄介な男だった。
 割と放任な家でマイペースに育
った達海にあれこれ言ってくるの
は母親より小煩く……しかし何故
か不快ではなかったが……まぁ根
気強いことこの上ない。
 好き嫌いが多い達海は食堂に連
れ出されていくのが一番欝陶しく
て部屋に鍵を掛けて篭城したりし
たが、それでも懲りずに世話をや
いてきて、食べない達海に差し出
した究極がタマゴサンドだった。
 ただのコンビニのサンドイッチ
だ。
 別段好きでも嫌いでもなかった
ので食べると、食事の予備として
タマゴサンドを持参してくるよう
になった。
 気が付くと、後藤の姿が視界に
入らないと落ち着かない気分にな
る、というくらいに後藤が常に側
にいたので、なんとなく、後藤は
自分のだ、という子どもじみた独
占欲と、後藤以外のチームメイト
に対する警戒心がないまぜになっ
て、ほとんど後藤から離れなかっ
たものだ。

「後藤の凄いとこってさ、俺がそ
こまでよっ掛かっても倒れなかっ
たってとこだよね」
「そうだなー。結局、いまお前が
普通に人並みの生活基準で動ける
ようになってチームメイトへの意
識とか接し方もちゃんと選手らし
くなったのは、間違いなく後藤の
おかげだもんな」

 笠野がニヤニヤしながら達海を
からかったが、達海は、京都に移
籍してしまった後藤の、自分の中
の存在比率がとてつもなく大きい
ことを改めて実感していた。

「まぁ、お前には無理だよな。後
藤みたいに後輩育てるなんてよ」
「うっさいなー。いんだよ、俺に
は俺のやり方があんの!」
「ほー、そんなもん本当にあるの
か?」

 笠野の胡散臭い笑みに唇を尖ら
せながら、達海はクラブハウスの
屋上から足をプラプラさせた。
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