Short Story

□明けまして、本日も
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 ふんふんふ〜ん、と、達海は
餅の伸び具合にご満悦である。
 新年のとっぱじめと言っても
クラブハウス住まいの達海には
さして変わらないものとなるは
ずだったのが、それが何故か雑
煮にありついている。
 美味しい。
 その上質な雑煮の製作者はと
言えば。

「宮野、お前、意外に料理上手
なんだねー。みんな、ちゃんと
食べてるか?」
「はーい」

 正月くらい実家に帰ればいい
のに、電車で一時間以内の近場
組はたまに帰ってるし夜には顔
出しますから、だの、両親が呑
気に海外旅行行きました、だの
と言って寂しい寮正月だのひと
り正月だのを迎える者が割合い
て、両親が海外旅行な宮野がじ
ゃクラブハウスの厨房借りてみ
んなでなんか作ろうぜ、と……
そんな次第のこの雑煮である。

「俺、茶碗蒸し作れる」

 と、言っているのは熊田だ。

「あと、正月っぽいとか言った
ら海老とか鯛とか?」
「おせちないんスか」
「いやーコンビニ行って買うっ
たって、なんだかんだでひとり
用じゃ足りないだろ、おせち」

 他には佐野と湯沢と赤崎がい
る。
 世良や椿は実家にいるらしい。

「あ、後で清川さんも来るって、
メールきた」

 赤崎が携帯を確認して、若手
はワイワイ賑やかだ。

「ふーん、けっこー暇なんだね、
お前ら」

 そういう俺もだけど、と笑う
と、若手はそろって達海を見た。

「達海さん、本当に予定ないん
スか?」
「ん、ないこともないけど今時
点は、ないかな」
「わかりづらいんスけど」

 赤崎が渋い顔をすると、湯沢
が淡々と接ぐ。

「つまり、夜には予定があると」
「ピンポーン」

 帰省から戻るのに元旦は早過
ぎるだろう、と思うが、本人が
戻ると言うのだからよいのだろ
う。
 けれど、大晦日から元旦への
日付の移行を共に過ごしたのに、
日帰り帰省など疲れるばかりで
はないかと思う半面、共にいら
れる時間が多いのは嬉しくもあ
って、達海の反応は「ふーん」
という中途半端なもので終わっ
ている。

「夜の予定って卑猥な感じのス
か」
「赤崎お前ちょっとダメな質問
だろそれ」

 棒読みで窘めて、こちらはス
ーパーで買った出来合いの栗き
んとんに箸を付ける達海に熊田
が笑った。

「達海さん、こっちもどうっス
か?」
「あ、黒豆ー。甘くて美味いよ
ね」
「俺は苦手っス」

 湯沢は現代っコだなぁ、と笑
うと、湯沢はむぅっとしている。

「あ、達海さん、口許」
「ん?」
「ついてます」
「んん?」

 ここ、と右の唇の端を指す佐
野に、どこー? と困っている
と。

「またあんたは、べんとうつけ
てんのか」
「ふえ?」

 するりと横から太い腕が伸び
てきて、達海の顎をやはり太い
指が掴んだ。

「え、なんで、」
「ん?」

 村越がここに……、と思いな
がらきょとんとすると、夜に戻
ってくる予定の男は達海の唇の
横についていたものを躊躇いな
く舐め取った。

「っ!」

 カッと熱くなる頬を悟られた
くないのに、あまりにさりげな
い行為だったせいで俯くことも
できず、村越を見つめるだけで
精一杯だ。

「コ、村越さん……どうしたん
スか」

 宮野の問いは(なぜここに?)
と、(なぜ達海の唇を舐めるの
か)という問いが混ざっていた
が、村越はまるで何事もなかっ
たかのように平然と、そして無
言で宮野を見返した。

「村越さん、おせちより達海さ
ん食っちゃいそうスねー」

 ケラケラと笑いながら入って
きたのは来ると言っていた清川
で、その発言で各々なにかを察
したらしい。
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