Short Story

□聖なる夜も騒がしく
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 この季節になるといつも思う。

「クリスマスとか、別に関係な
くね? 俺んとこの実家、仏壇
あるぜ」
「うちの実家にもあるよ。神棚
もな。いいじゃないか、そんな
にこだわらなくても」

 こだわってるわけじゃねーよ、
と唇を尖らせて、達海はキラキ
ラしたモールを指先で弄んだ。
 イングランドはわかる。
 あそこはそういう行事の国だ。
 だが、子どものときならいざ
知らず、家族か恋人のイベント
としてのクリスマスは金がかか
るばかりだろうと思う。
 それをわざわざ、クラブハウ
スにデカいツリーまで飾り付け
て。

「年中行事だからな。それに、
寮住まいで帰らない奴とかもい
るだろ? 気分くらいは味わわ
せてやらないと」
「ったって、高校生じゃねんだ
からさー。カノジョと過ごすと
か、しないのかね、あいつら」

 言いながら見上げるツリーは
本来、先週末に行われたファン
用のイベントの為のものだ。
 しかし、イベントが終わった
後でぼんやりとツリーを見上げ
る若手の多さに、緑川が苦笑し
ながら村越に何かを耳打ちし、
達海は村越から「選手やスタッ
フでクリスマスしませんか」と
いうため息混じりの提案を受け
たのだ。

「夏木だってさぁ、わざわざ参
加しなくていいじゃん。家族サ
ービスのしどころだろ、クリス
マスなんて」
「あぁ……イヴはさすがにどう
かと思った、俺も」

 なんで俺だけ仲間外れにしよ
うとするんスかーっ! という
夏木のうるさい抗議にあったた
め、ETUでのクリスマス会と
称した忘年会――酒、食料品及
びパーティーグッズ等は要持ち
込み、ケーキとチキンだけは後
藤持ち――はイヴイヴに行うこ
ととなった。
 つまり、今日だ。
 自由参加と言ったのにやけに
参加率の高いクリスマス会は、
開始時刻の十八時が近づくにつ
れ、ワクワクしてくるから困っ
たものだ。

「男ばっかでクリスマスってさ
ー。せめて有里とかいるならと
もかく」
「有里ちゃんは今日、藤澤さん
と買物行くって張り切ってたぞ?
久々のショッピングと映画だっ
て」
「映画? なに観るんだ、あい
つ」
「なんか……ほら、スパイ映画
の新作出るだろ」

 アクションか! と突っ込み
たくなったが、デートでもある
まいし、友人と見に行くならア
クション上等だろうが……それ
にしても有里らしすぎる。

「……あのなぁ、達海」
「なんだよ?」
「さっきから、お前の目がキラ
キラしてる。楽しみなら素直に
そう言えよ」

 後藤が苦笑して、いつまでも
ツリーの側から離れない達海の
額を小突いた。
 後藤にはいつも、そんな心情
を見透かされる。

「だいたい、お前、なんか仕込
んでるだろ。悪戯はほどほどに
しろよ?」
「ニヒっ、ヤだね!」

 言い切ると、後藤がわずかば
かりため息をついて、それでも
くしゃくしゃと髪を撫でてくれ
た。
 後藤の手は、大きくて温かい
……いつも。

「達海さーん!」

 触れられる手にドキドキして
いると、チーム一の元気っコ、
世良がやってきた。
 赤崎や湯沢もいる。

「よぉ、早いね」

 意外な組み合わせかな。など
と思いつつ、しかし湯沢はとも
かく赤崎は、誰かに行こうと誘
われなければ素直には来られな
いかもしれないな、とも思う。
 カッコつけだから。

「楽しみだったんで、早めに来
ちゃいました!」

 素直さも指折りの世良が元気
に言うと、赤崎が案の定、過剰
に反応する。

「ちょ、世良さん! そんなこ
っ恥ずかしい理由、なに大声で
叫んでんスか!」
「えっ、なんで恥ずかしいんだ
よ?」
「……相変わらずスね」

 湯沢がボソッと呟くのがおか
しい。

「アハッ、お前ら仲良いねー」
「なっ……ガキみたいに言わな
いで下さいよ!」

 赤崎がまた反応するのがおも
しろくて、達海は赤崎の頭をち
ょいちょいと撫でた。
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