Short Story

□Thank you for my darling!
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 村越にはこれでもかってくら
いに嫌われてる。
 そんなこたーわかってるし、
でもそれで俺の何かが変わるく
らいなら最初からイングランド
に行ったりしてないわけで、過
去の所業を恨まれてたとしても
それで傷つくほど可愛いげのあ
る男じゃない。
 それが達海猛って男の中身な
んだからこれはもう仕方ないじ
ゃんって思ったりしてた。
 だからすごく驚いたわけだ。

「聞き違いだよな?」
「いや、多分聞き違ってねぇよ。
俺はあんたを、抱いてめちゃく
ちゃに鳴かせたいって方向で愛
してんだ」

 真剣な目で俺を見つめてあま
つさえ俺の右手を取ってご丁寧
に自分の股間を握らせるって、
村越ぜってーモテねーな、なん
て思ったりする。
 女のコにやったら確実に警察
呼ばれるレベルのセクハラでし
ょ、だって。
 まぁ、セクハラ云々はともか
くとして、三五になるオッサン
相手に股間がガチでコレったら
ホントに引くわ、普通。

「村越、俺のこと嫌いだよな?」
「嫌い嫌いもって言うじゃねぇ
か」
「いや待てちょっと……勝手に
胸とかまさぐってんじゃねー、
よ!」

 ぺらっぺらの男の胸なんか触
って何が楽しいのかわかんねー
……とか思いつつ、ちょっと背
中ゾクゾクしちゃった俺もどう
なわけ?
 やだね、村越の握って興奮し
てんの伝染ったんじゃねーの?
 それとも……好きって言われ
て予想外に嬉しかったからとか?
 どっちにしろ冗談じゃない。
いまここで掘らせてやっても、
こいつの憂さ晴らしにはなるか
もしんないけど明日の試合で立
てなくなる。
 俺が。

「って感じなんだけど、監督不
在で試合してーの、村越くん」
「……憂さ晴らしじゃねーよ。
けど、あんたが俺を、選手じゃ
なくて、あんたを抱く雄なんだ
って意識してくれんなら、今日
はどいてもいい」

 うわ、偉そうだね、こいつ。
ガチガチにして、もうヤる気満
々で腰押し付けてきてんのに、
止められるんだ。むしろすげー
な。

「押し倒されて、例え真似事で
も宛てがわれてさ、しかもそれ
やってんのが酔ってもいない冗
談が下手な男だぜ? いくらな
んでも笑えないでしょ、これは」

 男との経験なんて、まして自
分がヤられる側とかあるはずも
ない俺がわりと頑張ってニヒ、
と笑みを浮かべると、村越は険
しい顔で俺にキスをした。
 俺の股間に硬いのを押し付け
ながらの濃厚なキス。
 猛獣みたいに噛み付かれて、
俺の意識は蕩けていく。
 口の周りがベタベタになるま
で食われて、村越が実はかなり
のテクニシャン……我ながら死
語だよね……だって思い知った。

「俺が本気だってこと、毎日キ
スして思い知らせてやるから覚
悟しとけよ、監督さん」

 熱くなってる頬を隠そうと両
腕で覆った俺に、村越はそう囁
いて俺の上からどいた。
 毎日?
 こんなやらしいキスするって?
 情けないことに、いまの俺は
村越にキスされて一気にその気
になってきてる体を抑えるので
手一杯だ。

「つーか、報告聞くだけのつも
りだったのになんの報告してん
だよ、お前」
「うっせーよ。どうせなら昔の
面影なんぞないくらいに変わっ
てくれてたらよかったんだ。そ
うしたら二度も惚れたりしなか
った」

 なに、俺が悪いわけ?
 冗談だろ。惚れてくれなんて
頼んでねーよ。
 て、あれ?

「……なんだ?」
「……いや、なんでもねーや。
ほら、報告済んだんならとっと
と行け。俺は忙しいんだよ」

 次の試合の作戦練るんだから。
 そんな言葉でごまかして村越
を追いやってみたものの、バカ
みたいに沸騰した頭の中は収ま
らない。おまけに体の芯まで火
照ってるんじゃあ、どうにもな
んないでしょ。

「……毎日って本気かな」

 いまからちょっと怖いんだけ
ど、まさかね。
 なんて思ってみたわけだけど、
だ。
 村越は本気だった。
 毎日毎日やらしいキスを人に
見えないところでしてくるわけ
で、村越の奴、キスしてる最中
は色んなトコロを触ってくるわ
「好きだ」「愛してる」のオン
パレードだわで正直かなり参っ
てる。
 なーんで三二の男に三五の俺
が迫られてドキドキしなくちゃ
なんないのか全然わかんない。
 いい歳した野郎が血迷って、
なんかいいことあるってのか?

「監督、最近なんか悩み事でも
あるんですか」

 さっきもグラウンドに来る前
に村越に捕まって、腰にくるよ
うなすごいのされた俺が人知れ
ずため息をついていると、村越
よりひとつ上だけどどう見ても
俺より年上に見える緑川が話し
かけてきた。

「そんな色っぽい顔してたら、
食っちまいますよ」
「ぅおい、誰が色っぽいってん
だ。つーか食うってなんだ食う
って。誰がこんなオッサン食い
たがるんだよ」

 村越といい緑川といい、ホン
トにわかんねーな、最近の奴は。
サッカーのことならともかく、
俺相手にそんな性的発言とかど
う考えてもナイぜ、絶対。

「ははっ、相変わらずわかって
ないなぁ、達海さんは。それと
もわざとですか」
「なにがだよ」
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