Short Story

□Please★eat me!
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 最近、おかしい。
 なにが?

(俺が、でしょ)

 窓辺に座って外を眺めながら、
達海は厚手のフリースを着せら
れた上に毛布を掛けられてもっ
ふりしている。
 初秋に入ろうという頃、季節
の変わり目にくしゃみひとつで
モコモコにさせられたのだ。

「なーあ、さすがにコレはやり
すぎじゃね?」
「なにがスか」

 クラブハウスに陣取った達海
の部屋に、悠々と陣取っている
のはETUイチの生意気小僧、
赤崎だ。

「こんなモコモコってさ」
「暑いんスか?」
「……んや、別に」
「じゃあ、いいじゃないスか」
「えー」

 不満げに唇を尖らせながらも、
着せられたフリースも毛布もそ
のままにしている達海を、自分
が持ち込んだ文庫本を読んでい
た赤崎が目線を上げて見つめる。
 最近、練習後の一時、赤崎は
この部屋にいることが多い。

「達海さん」
「なに」
「ん」

 ポムポム、と自分の隣を叩く
赤崎にますます唇を尖らせる達
海は、指先までもふっとした手
で鼻のあたりを擦ってみる。

「早く」
「……なんでだよ」
「窓辺に居られると、見てる方
が寒いス」

 淡々と言う赤崎は、黒田と罵
り合ったり清川たちに生意気な
態度で噛み付く姿とは違って、
棘々しくはない。
 いや、達海の部屋に毎日上が
り込んで居座る姿はかなりふて
ぶてしいが、最初から嫌ではな
いし、最近ではむしろ夕方に赤
崎が立ち上がると、もう帰るの、
と思う自分がいる。

「ほら、こっち。早く来てくだ
さいよ」
「……わかったよ」

 窓辺から下りて、足の踏み場
もない部屋のベッドにたどり着
く。

「わっ、」

 毛布まかさってんのって歩き
づらい、と思いながらベッドに
乗り上げると、不意に赤崎が達
海の肩を押した。
 体が横になり、背中がスプリ
ングにつくとおかしな感じがし
て、アレ? と思って真上にい
る赤崎の顔を見つめる。

「赤崎ー」
「なんスか」
「体、沈むんだけど」
「でしょうね」
「なんで?」
「風邪でしょ」

 言って、コツンと額を当てて
くる赤崎の、少し吊り上がり気
味の目を見つめる。
 近すぎてぼやけた視界の中で、
以外と優しい目、してんだなぁ
と思った。
 熱を計っているのだと理解し
たのは少したってからで、理解
したのでふっと目を閉じる。
 体も頭もベッドに引きずり込
まれるような感覚があると思っ
たその瞬間だった。

「……、」

 達海の唇に温かいものが乗っ
て、その熱が引いてから目を開
ける。

「柔らかいんスね」
「……うん、ま、唇だし」
「もう一回いっスか」
「それって、ダメっつったら止
めんの?」

 ベッドの上に投げ出した手を
握られて、抵抗するより指の絡
む赤崎の手を握り返した。

「止めないス……いただきます」
「……召し上がれ?」

 などという答えでいいかどう
かわからないが、受け入れよう
と思ったのでそう言った。
 すると赤崎の唇がもう一度達
海の唇に触れて、そこから何度
もキスが注がれた。
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