Short Story

□2011年賀正SS
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 酒は弱くない。
 強いかと聞かれるとそうでも
ないが、少なくとも弱くはない
はずだ。

「……呑みすぎた」
「そりゃあそうでしょう、あん
だけ派手にドンチャンやれば、
誰だって潰れます」
「平気そうな顔で言うんじゃな
いよ、村越〜……」

 クラブハウスの会議室から数
十歩、達海は自分の部屋でぐで
んぐでんだった。
 最後の最後までなんやかやと
仕事をしていた後藤と共にクラ
ブハウスで迎えた元日、独り者
同士で呑むか的な流れだったは
ずが、事務所にかかってきた丹
波からの電話で事態は急変した
のだ。

「バレたらまた有里に怒られそ
う……」

 頭は痛くないが、まだ酒が抜
けていないせいでフラフラなま
まの達海は、何故かDVDと一
緒くたになって床に転がってい
るバカ共を踏みつつシャワーを
浴びようと部屋の外に出る。
 入口のところには椿が達海の
ジャケットを抱き込んですよす
よと気持ち良さそうに眠ってい
て、腹が立ったので嘔吐しない
程度の力加減で腹の辺りを潰し
てやった。

「あんたが無自覚なのが悪いん
スよ」
「何が」
「あんたを抱きたい男は山ほど
いるのに、全然わかってねぇ」
「うっせーよ。なんなのお前ら、
揃って男が好きなワケ?」

 毎年恒例の寮内年越しの最中、
丹波が思いつきで達海に電話を
掛けてきた。
 ベテラン若手入り交じってほ
ぼいつものスタメンがクラブハ
ウスの会議室に酒だのつまみだ
のを持ち寄って集まってきたの
が午前一時前。
 寮を出ているはずの村越やら
緑川やらまで一緒だったのには
単純に驚き、早くカノジョ探せ
よ……と思ったものだが、彼等
の目的は呑みではなかったのだ
と知るのは一時間が経過した頃
だったろう。
 始まりは赤崎の、アホくさい
一言だった。


「監督、お年玉下さい」
「はい?」
 ビール党の達海が缶を手に手
に杯を重ねていると、早くも酔
っ払いになった赤崎が達海のす
ぐ側までやってきて少し茶色い
瞳をじーっと見つめながらそう
言った。
 お年玉?
 赤崎は確かに若いが、まさか
そんなものを本気で欲しがるよ
うにも見えない。
 いや、カッコつけなので本当
は案外子どもっぽいのかもしれ
ないと思い直し、手近にあった
チータラを一本、赤崎の口許に
持って行く。

「はい、お年玉」

 言うと、ぱくんとチータラの
端を口に含んでもぐもぐした赤
崎は、ごっくんした後にますま
す近い距離で達海を見つめてき
た。

「ちがーう、チータラじゃない
んスよ!」
「なんなの、お前。面倒臭いね」

 まったくこの酔っ払いはもー、
と思いながら赤崎の頭を撫でる
と、赤崎は一瞬呆けてからいつ
もなら絶対に見せないであろう
全開の照れ笑いを浮かべた。
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