Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【19】
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 ジーノが自分にキスをする意
味を、達海は少しだけ考えた。
 去り際に言った恋しい人とい
うのがもし自分のことだったと
して、後藤や村越に許したよう
に体を開くかどうか?
 好きと正面切って告げられれ
ば嬉しいに決まっている。もと
もと大事な選手なのだから、好
きか嫌いかで言えば好きだろう。
 ただ、ジーノを後藤や村越の
ように愛することはないという
確信があった。
 二人だけが特別なのだ。
 心は動かない。

「って思ってんだけど、これじ
ゃダメ?」

 尋ねると、シャワー室に入っ
てすぐ、ジーノ以上にやらしい
キスをしてきた後藤は、達海の
服の中に突っ込んで激しく素肌
をまさぐっていた手をぴたりと
止めた。

「……悪い、大人げなかった」
「いーけどね。でも、ここでヤ
んのはさすがにちょっとまずい
しさ」

 ニヒ、と笑うと、理性を取り
戻したらしい後藤はバツが悪い
という顔で下着の中に入れよう
としていた手を引っ込める。

「あ、待って、ついでにちょっ
と手伝えよ。ていうか、責任取
ってくんない?」
「は? 責任って……なんだ?」
「うん、あのさ」

 ちょいと背伸びして後藤の耳
元に唇を寄せる。
 して欲しいことの中身を伝え
ると、後藤の顔つきが見る間に
変わった。

 ――あれ、なんか俺、失敗し
たかも?

 そう思っても取り返しがつか
ず、後藤の手が再び腰に触れる
のにビクリと反応する達海は、
ちょっと色々自重しようと心に
決めた。



 そこから二試合、ETUは好
調だった。というより、選手コ
ーチ入り乱れてやけに何かに燃
えていた。
 それが何に対してなのかはあ
まり考えずに、達海は単純に勝
利を喜ぶことにしたが、松原が
こぼす細かな愚痴はしばらく甘
んじて受けようと決めて迎えた
三戦目。
 東京ダービー。
 結果はまぁ、負けなかった。
 それをよしとしている選手が
いないことが、達海にとっては
収穫だ。
 選手たちは勝ちたがっている。
その気持ちが前を向かせる動力
になることを、達海は身を以っ
て知っていた。

 ――あとはあれだ、焦って技
術面だけを重視するような早と
ちりしなきゃいんだけど。

 経験に裏打ちされた自信は強
い。過信にならなければ……い
や、椿あたりは多少過信気味に
なるくらいの方がいいかもしれ
ないが、しかしそれは一朝一夕
で身につくものではないのだ。
 平泉が作り上げた名門に相応
しいサッカーをするチームに、
自分が着任して一年目のETU
が勝つことは簡単ではないと知
りつつ、達海は帰路に着こうと
通路を歩きながらキャンプメニ
ューやそこに至るまでにやるべ
きことを思案していた。

「……あれ、なんでお前がいん
だよ?」
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