Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【18】
1ページ/4ページ

 村越の部屋は思った以上に居
心地がよかった。
 後藤の部屋はシックで落ち着
いた雰囲気だが、村越の部屋は
装飾が極端に少なく、必要最低
限のものしかない。ただ、これ
は面白いと思ったのはソファー
テーブルの代わりに置かれた大
きくて丈夫なトランクケースで、
年代物らしい風合いが色味の少
ない室内に溶け込み、与える印
象を和らげている。
 きちんと片付けられているよ
うで、各種雑誌や新聞は乱雑に
平積みされていたりするのがい
いのかもしれない。

「適当に座ってテレビでも見せ
といて下さいよ」

 キョロキョロしている達海が
部屋を荒らすとでも思ったのか、
村越は後藤に向かってそう言っ
た。
 肉じゃが食いたい、などとい
うのは方便で、誰にも邪魔され
ないところに行きたかった達海
の思惑などまるで気づいていな
いらしい村越を眺めながら、苦
笑している後藤の二の腕に拳を
ぶつける。

「な、なんだ?」
「仕返し」
「は? なんのだよ?」
「知らね」

 ゆったりしたソファーに俯せ
で横たわり、ひじ掛けに頭を乗
せた状態で目を閉じる。クッシ
ョンからかすかに村越の匂いが
する気がした。
 しばらく寝たり起きたりの日
々だったせいか、体に眠り癖で
もついたらしい。
 恋人とはいえ他人の、しかも
初めて訪れた部屋で少しだけ落
ちた。

「……あれ、」
「起きたのか? 気持ちよさそ
うにすやすや寝てたぞ」

 目を開けると後藤の肩が目の
前にあって、少し驚いた。呆け
た顔で肩越しに振り返った後藤
を見ていると、笑って髪を掻き
交ぜられる。
 ソファーに持たれて雑誌をめ
くる後藤の指先に一瞬だけ見と
れてから起き上がった。
 キッチンからはいい匂いがし
ていて、村越もこっちを少しだ
け見て笑っているのがなにやら
くすぐったい。
 クッションを抱き締めながら
ソファーの上で胡座をかいて、
目の前の後藤の頭を両手でくし
ゃくしゃと掻き回したりして気
を紛らわせてみる。

「こら達海、よせって」
「えー? 後藤もやるじゃん」
「こんなに強くしてないだろ、
俺は」
「そうだっけ?」

 惚けてみるが、たしかに後藤
の触り方はいつも優しい。力強
さは村越の持ち味だ。

「達海さん、寝て起きてすぐ食
えるか?」
「ん、大丈夫。いー匂いだなぁ」
「味付けとか適当だぞ」

 言いながら運んできたのは白
飯と豆腐と揚げのみそ汁、肉じ
ゃが、それから。

「ピーマン?」

 千切りにしたピーマンと合わ
さっているのはなんだろう。

「塩こぶ、か? 和えてあるだ
けか、これ」
「あぁ。炒めたら炒めたで美味
いけどな、肉じゃがあるし、生
のがいいだろ」

 へー、と感心する後藤が配膳
を手伝い、達海はそんな様子を
眺めながら、村越はキッチンに
立っているとき、ピッチ上と同
じ顔してんな、と思っていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ