Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【17】
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 達海が回復したのは、倒れて
から四日後のことだった。
 後藤の献身的な看護のおかげ
か咳も残らず、熱も下がり、随
分すっきりした顔でグラウンド
に現れた。
 選手一同安堵したし、コーチ
たちも一安心といった様子を見
せていたが、村越だけは不機嫌
だった。
 理由は言わずもがな、「村越
は大事な選手だから」と達海本
人に言われて、看病はおろか、
寝込んでいる恋人の様子を見に
行くことすら禁止されたのだ。
 むろん他の選手やコーチも扱
いは同じで、唯一達海の世話を
焼き慣れた後藤のみが室内に入
ることを許された。妬くなと言
う方が無理である。

「村越さん、眉間にシワ寄って
ますよ」

 世良や夏木、それから相変わ
らず意味不明なことを言ってい
る椿などが練習後に達海を取り
巻き、きゃっきゃと騒いでいる
のを見ていただけなのだが、杉
江がわざわざ忠告しにくるとな
ると相当険悪な顔をしていたの
だろう。

「達海さん、体調悪くても解り
づらいから大変ですね、見てる
方は」
「ふん、ろくに飯食ってなけり
ゃ風邪も引く。自業自得なんだ
よ、あの野郎は」

 デカい杉江は、村越を見下ろ
しながら、(とか言って、達海
さんが寝込んでる間中心配しっ
ぱなしだったくせに)と書いて
ある顔を向けてくる。
 杉江に達海とのことがバレて
いるのは薄々気づいていたが、
はっきりと打ち明けたわけでは
ないのでお互いに話す中身に限
度があって、ただ、それを打ち
破るのはいつも単純明快なこの
男だ。

「そうだぞ、杉江! あの野郎
が風邪ひいたおかげでこっちは
色々迷惑被ってんだ、自業自得
だ自業自得!」

 選手としての体格は決して恵
まれた方ではないのに、気合い
と根性と持ち前の気性で相手に
ぶつかっていく黒田は、自業自
得と言う言葉がなぜかとても似
合う。

「黒田、意外と心配しまくりだ
ったくせに。だいたいなにが迷
惑だったんだ?」
「そ、そりゃー……お前、心配
しなきゃなんねぇような状態に
なったこと自体が迷惑じゃねぇ
か!」
「あ、そう……黒田、達海さん
のこと好きだよな」

 杉江が発した一言は、村越が
ぎょっとするもので、達海に対
していつも文句の嵐な黒田まで
が、と思うと過敏な反応を示し
てしまった。

「黒田、お前、達海さんのこと
……?」
「なっ……何言ってんスか村越
さん! テメ、杉江っ! 村越
さんの前で気持ち悪いこと言う
な!」
「気持ち悪いって、本当のこと
だろ? 俺に対してもそうだけ
ど、今までこんなに黒田のこと
しっかり理解して使ってくれる
監督っていなかったじゃないか」
「え……あ、あぁ……なんだ、
そういう意味かよ。まぁ、な。
ちゃらんぽらんなようで意外と
見てる感じはすっけど、でもあ
れだ、風邪とかねぇだろ!」

 杉江のツッコミに一瞬安堵し
たような黒田は、達海に対して
監督として以上の感情があるこ
とを滲ませている。
 明け透けなく考えていること
が態度に出る黒田が少し羨まし
い。
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