Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【15】
1ページ/4ページ

 クラクラする。
 頭が痛い。
 咳が出るせいで喉が掠れて、
肺がいつものように酸素を取り
込まない。
 吐き出す呼気がやけに熱くて、
目元も何故か潤んできた。

 ――ヤバイ、これはまさにあ
れだ。

 試合中にくしゃみが出たとき
から背筋と肩のあたりがやけに
寒いと思ってはいたが。
 この数年、いや、少なくとも
イングランド時代は引いた記憶
がないから、十年以上ぶりの。

「風邪ってー……こんな、脚と
かガクガクしたっけー……」

 呟いてみる声が遠い。
 顔が熱くて、バスから降りて
解散する頃には体はすこぶる重
く、怠かった。
 しかし、風邪のときはとりあ
えず何をするべきか……達海に
はよくわからない。
 もはや考える能力すら低下し
て、関節が勝手に震える始末だ。
 ベッドに横たわっているだけ
なのに、近年稀に見るつらさで
ある。

「う〜……うぅ、なんなんだよ
も〜……」

 枕に頭を押し付けてぎゅっと
丸まっていると、ドアが二度、
ノックされた。

「達海さん、飯食い行かねぇか」

 村越だ。
 かちりとノブが回る。
 達海はもそっと布団から頭を
出すと、入ってこようとする村
越を制した。

「ダメ……ぇ、村越、入ってき
たら、嫌い、になるかんね……」

 咳を飲み込みながら言うと、
開こうとしていたドアが止まっ
た。

「どうしたんだ、何かあったの
か?」

 ドアの向こうから聞こえる村
越の声に、険しさと心配と不安
が均等に混ざる。
 達海はまとまらない思考をか
き集めて、要点を伝えた。

「ごと、呼んで……?」
「……なんで後藤さんじゃなき
ゃダメなんだ」

 今度は、なぜ自分ではなく後
藤を呼ぶのかという怒りが追加
された村越の声に、はっきりと
答えるだけの気力がない。
 それどころか、村越怒ってる、
と思った瞬間に涙腺が崩壊して
しまった。まったくもってどう
しようもない。
 ひっく、と子どものように喉
が鳴った。

「……達海さん?」
「い、から、ごとー呼べ、って
ば! ぅ、ひっく……む、村越
ぃ……!」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ