Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【13】
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 朝、後藤はいつもより早めに
部屋を出た。
 夕べは、ちょっと会いたくな
って達海の部屋を訪れたら村越
がいて、しかも事後で、さらに
は何故か椿がその場を走り去る
という衝撃的な展開の後、村越
を帰してからクタクタなのにぐ
ずる達海を寝かし付けて帰って
きた。

「あ、徳井くん、工具箱ってあ
ったっけ」
「工具箱ですか? どこだっけ
なー」

 クラブハウスで最初に会った
徳井に尋ねると、一緒に探して
くれた。
 いつも達海が使っている脚立
をしまってある所に入っていた
工具箱を手にした後藤を見て、
徳井は不思議そうな顔をする。

「後藤さん、なにするんですか?
誰か、なんか壊したんでしょう
か」
「まぁ、修理は修理なんだけど
……壊した、じゃなくて壊れた、
かな、多分。達海の部屋のドア
がちょっとだけ開くんだよ」

 夏木や世良あたりが暴れて壊
したのかと心配する徳井に答え
た後藤は達海の部屋に向かい、
まだ眠っているらしい達海の部
屋を勝手に開けた。

「達海、起きろ。もうすぐ練習
始まるぞ」
「う〜……ん」

 もぞぞ、と動く達海の寝ぼけ
た顔は、有里なら間違いなく叱
り付けるほど力が抜けている。
 しかし、初めて寝起きの達海
と遭遇したらしい徳井の方は、
一瞬目を見開いてから明らかに
生唾を飲み込む気配がした。
 昨夜のセックスの名残が全身
に漂う達海を見れば、その反応
を責めることなどできはしない。
 後藤は甘えて抱き着こうとし
てくる達海に苦笑しながら、あ
ちこちに跳ねている髪をぐしゃ
ぐしゃと掻き回した。

「ほら、シャワーでも浴びて来
い。その間にドア直しておくか
ら」
「……んー。ごと、きの、いつ
帰った?」
「お前が潰れた後」
「……ふぅん」

 なぜか不機嫌だ。
 どうしてだろうと思っている
うちに、達海はのそのそと起き
上がって部屋を出ていってしま
う。

「監督って……いつも寝起き、
あんな感じなんですか?」

 まだ若い徳井は戸惑ったよう
に達海の背中を視線で追い掛け、
後藤はドライバーを探しながら、
うん、まぁ、昨日は呑んだから、
と白々しい嘘をついた。
 けだるげなのかはともかく、
なぜ達海が不機嫌なのかは、徳
井の前で理由を聞いてはいけな
い気がしたのだ。
 二次災害は未然に阻止すべき
である。

「はぁー……」

 今日、これからすべきことを
考えると、やはり気が重い。

「どうしたんです、後藤さん」
「え、あ、あぁ……いや、昨日
呑みすぎたかな」
「ははっ、珍しいですね。後藤
さんが呑みすぎたなんて」

 徳井は軽く笑ってからドアの
修理を手伝ってくれた。コーチ
陣の中ではまだ若い徳井は、後
藤に対して礼儀正しい。
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