Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【12】
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 吐息が混じる少し掠れた声、
力いっぱい抱き締めたら折れて
しまいそうな体。
 触れた胸板の鼓動は速くて、
それがなんとも言えず嬉しい。
 自分の他に、この男を慈しむ
贅沢を許された男は一人しかお
らず、一度だけふたり掛かりで
めちゃくちゃにしたときに気付
いた。
 自分には見せない表情を後藤
には見せる……そして、村越に
しか見せない表情もあるのだと。


「……ッ、」
「あ……む、村越……!」

 頭の中が真っ白になり、首に
回った達海の腕が微かに震えた。
 電気をつけっぱなしにした状
態で抱き合うのは初めてで、明
るい光の中に浮かび上がった達
海の体は明らかに男の肉体だと
いうのに、どこまでも艶めかし
い。
 荒い呼吸を整えようとする動
きがまた村越の情欲を誘って、
達海が首を振るのに構わず再び
腰を揺する。

「村越、ま、待て……も、う…
…!」
「大丈夫だから、もう一回だけ、
な」
「だ、いじょぶ、じゃ、ね……」

 背中を撫でてあやしながら続
きに及ぼうとしたその時だった。

 ガタッ!

 開けっ放しにしていた窓では
なく、ドアの方から聞こえた物
音に、村越と達海はギクリと体
を強張らせる。

「な、なん……なんだ?」
「見てくる」

 達海から離れてドアを開ける
と、バタバタという足音が響い
て、入口のドアが激しい音を立
てて閉まった。村越は誰か確認
するために慌てて窓の外に顔を
出す。
 すると、

「お、椿。こんな時間にどうし
た……え、おい、おーい?」

 離れたところで後藤の声がし
て、走り去る音が重なる。

「なんだあいつ……お、村越…
…、」

 振り返った後藤と目が合って、
村越は固まり、後藤は明らかに
事後とわかるその様子に絶句し
た。

「な、んだ……?」

 固まったまま動かない村越を
不審に思ったのか、達海が上体
を起こして呼び掛けてくる。
 後藤が重いため息をついてひ
とつ頭を振り、ゆったりとした
足取りでやってきた。

「え、後藤?」

 窓辺に立った後藤の顔を見て、
達海が不思議そうな顔をする。
ベッドの上、全裸のままで。
 後藤にギロリと睨まれ、村越
は何を言えばいいのかまるでわ
からなくなった。
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