Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【11】
1ページ/4ページ

 外に出てから、やけに見られ
ている気がするのは気のせいだ
ろうか?
 試合中、サポーターの視線を
受けると力が湧く。観客を楽し
ませるために、チームが勝利を
手にするために。
 駆け抜けるその先に待つもの
を、想像しながら期待の篭った
視線を背負う。
 だが、そういったものとは明
らかに違う視線が、今の村越に
絡み付いていた。
 男ふたりで食事、その図自体
は不自然ではないはずだが、も
しかしてそういう仲なのかと勘
繰られているのだろうか?
 周りの会話が届かないブース
席とはいえ、ついセックスだの
押し倒したいだの口走ってしま
った。
 浮かれていたのだ。
 チームが関わる以外の場所で、
ふたりきりで会うのは初めてだ
った。
 正直かなりワクワクしていた。
 サッカーから切り離したとき
の達海は予想以上に手がかかる
ものの、そんな部分を垣間見る
ことさえ楽しい。
 もっとこの人を知りたいと思
う。
 そして知れば知るほど、病的
なまでにのめり込んでいくのだ。
後藤と違って普段から達海に甘
いわけではないが、それでも十
分イカレている。
 練習の合間、ふと盗み見た達
海の飄々とした顔に、自分の下、
あられもない姿で鳴き声を上げ
るときの淫らな表情を重ねてし
まうくらいに。
 若手の世話をやいていた達海
に、俺以外の男とじゃれてんじ
ゃねぇよ、と思ってしまうくら
いに。
 そう考えると、自分が思って
いるよりもずっと如実に漏れて
いるのかもしれない。達海のこ
とを愛しているということが。
 外出るときは気をつけねぇと
な……そう思いながら風呂に入
った村越は、鏡に映る自分の首
筋を見て、危うく叫ぶところだ
った。


「あれ、どうしたんスか、村越
さん。首筋にでっかいバンソー
コ張っちゃって」
「丹波……いや、なんでもねぇ。
その、猫にな、ちょっと引っ掻
かれただけだ」
「猫? 村越さん、飼ってるん
スか? あ、もしかしてカノジ
ョの猫とか!」
「違う、野良猫だ。前見たとき
よりかなり痩せてたから、飯や
ろうと思ったんだが……抱き上
げようとしたら、な」
「うわ、災難。でも、気をつけ
てくださいよ、ばい菌入ったら
大変スから」
「あぁ」

 昨日、食事だけで帰宅した村
越が他人の視線の理由に気付い
たとき、真っ先に考えたのはチ
ームメイトへの言い訳だった。
 今日は試合だ。襟のあるユニ
フォームをありがたがったのは
初めてだが、それでもなにかの
折に見えてしまうため、絆創膏
で隠した。
 まったくもって、面倒な男だ。
 結局何人もに同じ言い訳をす
るうち、なんだか口も慣れてし
まって同じ話がスルスルと出て
くる始末である。

「コ、村越さん、大丈夫スか…
…?」
「椿」

 ホームゲームに勝ってみんな
が笑っているときに、ひとりだ
けげんなりとした顔をしている
と、珍しく椿が話しかけてきた。
 こいつはスゴイのかアホくさ
いのかいまいちはっきりとしな
い。
 達海は椿を気に入って、よく
試合で使っている……いや、今
シーズンの村越の横は常に椿だ。
 背番号、7。
 どうしても思い起こすのは噛
み痕を残した男のことで、あの
頃のことは自分には触れられな
い部分だとわかっている。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ