Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【10】
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「よーし、今日は終了ー。お疲
れ!」

 宣言して解散すると、選手は
思い思いに散っていく。達海は
医務室の窓から頼んで取っても
らったアイスにかじりついた。

「あー、監督いーな、アイス!」

 それを見ていた世良が子ども
のようなことを言い、達海はシ
ョリショリとソーダ味の定番ア
イスを食べながらニヒ、と笑う。

「やんねーよ?」
「えー! そう言われたら余計
に食べたくなるじゃないスか!」

 バタバタっとじだんだを踏む
世良はいつもうるさいほど元気
……いや、元気すぎてうるさい。
 だが何かと懐いてくる世良は
かわいくて、同じく懐いてくる
がかなり変な妄想男、夏木と比
べて構ってやる率も高かった。

「アイスっ! 食いたいっス!」
「あーもーまったく、しょうが
ないね。ほら、一口やるから早
く着替えに行けよ」
「マジっスか! やった! あ
ざース!」

 ん、とアイスを差し出すと、
世良はガプっとかじりつき、盛
大に一口持って行った。

「おまっ、デカいだろ、一口!」
「ん〜、おいひぃっス」
「うわ、口、ベタベタじゃん。
きったねーなぁ」
「うぶっ、かんとふ……いらひ
っス」

 ティッシュを窓辺から取って
世良の口許を拭いてやる。

「……何やってんスか」

 うぶぶっと世良が奇妙な音を
出しているところに村越たちが
引き上げてきて、世良の世話を
やく達海という奇妙な構図に怪
訝な顔をする。

「いやー、アイス食いたいって
うっせーから一口やったら、口
まわりベタベタにしてっからさ」
「そういうあんたは手ぇベタベ
タじゃないかよ」

 村越に言われて気づく。確か
に垂れたアイスのおかげで達海
の左手はえらいことになってい
た。

「うえっ、溶けてる溶けてる!」

 急いで残りを食べ終わると、
村越が呆れたように軽く息を吐
き、達海の左手を取った。

「げっ、む、村越!?」

 衆人監視の中、大胆さを明後
日に置き忘れてきたような男が
達海の指を口に含んで、情事の
最中を思い起こさせるような舌
使いで糖分を舐め取っていく。
 正直、驚いたし恥ずかしい。
 事情に気づいていない清川が
あんぐりと口を開け、世良と夏
木も目を見開いて同時に
「いっ!?」
 と叫んだ。そして、緑川はと
もかく、堺はいま完全に「ちっ」
と舌打ちした。しかも物凄く険
悪な表情で。

「……村越ー、お前のせいで余
計に手ぇベタベタんなったんだ
けど」

 ぞわぞわと背筋をはい上がる
快感を堪え抜いた達海は、村越
がやっとで離した指先を広げて
見せる。
 たっぷりと塗された村越の唾
液が流れ落ちる感触が達海の顔
を熱くして、何故か世良と夏木
がゴクリと唾を呑んだ。

「洗やいいでしょうが」
「お前ね、だったら最初っから
手ぇ洗えって言えばいいじゃね
ーか!」

 じゃれ合いにしてはあまりに
性的な村越の態度に困惑しなが
ら左手をプラプラさせたまま、
とにかく洗面所に行かねば、と
思う。
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