Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【07】
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 酷く心地よかった。
 達海の髪が下向きになってい
るのは、村越に散々抱かれたと
きに汗をかいたせいだ。
 ホテルのベッドのシーツはぐ
ちゃぐちゃ、男ふたり分の汗と
体液がこぼれている。
 正直に言おう。ヤりすぎた。
 バスタオルくらい引いてヤれ
ばよかった、と思ったのは体力
の限界までセックスした後で、
村越とする時はいつも際限なく
貪られるのでゴムがなかろうが
関係ない。

 ――でも、気持ちいいんだよ
なぁ。

 後処理とか面倒臭いけど。体
も凄い辛いけど。
 村越の腕も重みも、匂いも熱
も、伴う痛みさえ甘い。
 あぁ、そろそろ後藤が起こし
に来る。

「その前に起きなきゃな」
「見られたくねぇんスか」
「お前だってヤだろ、俺と後藤
がヤった朝に居合わせちゃった
ら」
「……後藤さんなら構わねぇよ。
あんたが俺のことも好きでいて
くれんなら、それでいいや」

 村越の無骨な指が達海の頬を
撫で、くすぐったくて首を竦め
る。

「そのかわり、心変わりは許さ
ねぇからな」
「馬鹿。ふたり相手で俺だって
いっぱいいっぱいなんだぜ?」

 達海はそう言って笑ってから、
村越の胸元に額を擦り付けた。
 不意に、ある思いが胸に上が
ってくる。

「なぁ、村越」
「なんスか」
「うん……あのさ」

 村越の分厚い胸板は、もとよ
り達海にはないものだ。

「お前はずっと、走り続けろよ。
前だけ見て、一生懸命にな」
「……?」

 こめた想いは、村越に届かな
いことを知っている。
 届かなくていいのだ。何しろ、
村越を守るのが監督の務めなの
だから。
 あの日の出来事など知らない
まま、村越にはピッチを駆けて
欲しい。
 達海はいま、何故か自分が感
傷的になっていると自覚してい
た。
 こんなに心地のいい朝だとい
うのに。


「あれ、どうしたの、後藤さん。
その写真いつの?」
「うわぁっ、ゆ、有里ちゃん!」

 後藤は手元の写真を覗き込ま
れ、驚いておかしな声を上げた。
 有里はそんな後藤の反応を笑
いながら、後藤が落とした写真
を拾い上げる。

「わぁ、後藤さんわっかーい! 
こっちって達海さんでしょ? 
アハハ、なにこの可愛さ! ふ
たりしてパピコくわえてるって、
ねぇ、いつのなの?」
「達海がルーキーのときのだよ。
あいつ、入ってきたときから変
わっててさ。悪戯っ子だったし、
俺がお守り役おおせ付かったん
だけど、最初のうちは大変だっ
たな」

 サッカーには真剣に取り組む
のに、プライベートはからきし
の達海は、懐こいようでいて中
々心を開いてくれずに、よく後
藤から逃げ回っていたものだ。
 達海との追いかけっこで足腰
鍛えられたんだよな、俺。など
と思うのは、入り立ての達海を
捕獲するために、ときには練習
量より多く走ることさえあった
からだ。
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