Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【05】
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 何をそんなに怒っているのか、
達海にはわからない。
 ただ、今日の村越がやたらと
不機嫌なのは明らかで、なおか
つ原因は自分なのだろうという
ぼんやりとした確信がある。
 昨日、お好み焼き屋を出た後、
突然次の試合に向けて確認した
いことを思い出した達海は後藤
を急かしてクラブハウスへ戻り、
相手チームの情報を洗い直した。
 ……まぁ、後藤とすることは
したわけだが、徹夜の理由は戦
略を練り込む作業だったと言っ
ていい。
 明けて今日、またしても遅刻
ぎりぎりでグラウンドに着いた
のはそんな理由で、情事が終わ
って後藤が帰った後でテレビに
かじりついた達海は、今日も元
気な有里に起こされ練習に姿を
現した次第である。
 そんな達海に、村越が鋭い視
線を浴びせ続けているのだ。
 ここしばらくは村越とも甘い
時間の方が多かったので、険し
い表情を向けられると落ち着か
ない気分になる。
 まるで気持ちを打ち明けられ
る前のような眼。
 意識したくないのに、なにか
につけて突き刺さる視線に首筋
がチリチリする。


「よーし、お疲れ! 上がって
いいよー。今日はゆっくり休ん
で明日に備えろーい」

 達海がそう声をかけると、バ
テバテになるまで走り回った選
手たちはそれでも気合いの入っ
た声でウェイッと応えた。

 ――いいねぇ。やる気十分じ
ゃねぇの。

 最近調子のいい彼らが楽しそ
うに試合をしている場面を見て
いると、達海まで嬉しくなる。
 ピッチの上に立たずとも一緒
に戦っている実感が湧いて、高
揚感に包まれるのだ。

「監督、赤崎はやっと調子を取
り戻してきたみたいですね」
「あー、そーねー。昨日黒田と
掴みかからんばかりの罵り合い
して発散できたんじゃないの?」

 いつもかなり迂闊な割に選手
たちからは親しみを持たれてい
る松原のご満悦な笑顔に、松ち
ゃんてほんとに弄り甲斐あるよ
なーと無関係なことを考えつつ
答える。

「黒田と? いつです?」
「練習終わった後、後藤とお好
み焼き屋行ったらなんかぞろぞ
ろ入って来てさ。ETU御一行
様で飯食ったんだ」
「へぇ、珍しいですね」
「だよな。ばったり会ったとか
言ってたけど、九人だぜ。すご
くない?」
「そりゃ凄い……じゃなくて、
監督が外で食事っていうのが珍
しいってことですよ。店屋物取
ったりサンドイッチばっかりじ
ゃないですか」

 松原に言われ、達海はそうい
えばそうかも、と思った。
 最近は特にだ。

「ふぅん、だからやけに楽しそ
うだったんだ、後藤のやつ」
「そうなんですか。よかったで
すね、GMに誘ってもらえて。
気分転換になりました?」
「うん。楽しかった」

 それはよかったですね、と応
える松原も楽しそうだ。現役時
代から変わらない松原は、自分
が監督になっても嫌な顔をしな
かった。
 意外と嬉しかったよ、と心の
中で呟き、クラブハウスに戻ろ
うとしたとき。

「あれ、村越じゃないか。どう
した、早く着替えないと体冷え
るぞ?」
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