Silent Sweetheart 【01〜40】

□Silent Sweetheart 【03】
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 部屋の中の散乱具合が酷い。
 達海を毎日起こしに来る有里
がいい加減片付けなさいよ、と
怒るのも無理はなく、基本的に
はベッドとテレビとDVDデッ
キ、小さなリビングテーブルし
か存在しない部屋だと言うのに
歩く場所がないのだ。
 時折、寝られる状態ですらな
くなる。
 ただ、
 それでも、服を選ぶのが面倒
臭いのでいつも同じ型のシャツ
にスラックス、ネクタイも代わ
り映えしない物をいくつも買っ
てロッカーの中だし、その他は
支給品のジャージとTシャツ、
下着や靴下だって散らかさずに
ちゃんと整理している。
 床の上の物はあくまで資料だ、
資料。

 ――まぁ、時々カップ麺の食
べ終わったのとかも転がってる
かもしんないけど。タマゴサン
ドのフィルムとか。

 そんなわけで、達海の部屋は
いつも汚い。
 だがしかし、いまは少々様子
が違った。

「あれ、俺の靴下どこだ?」
「……後藤さんのスよね、こっ
ちは」

 DVDの山の上に何枚もの衣
類。
 ひとり分ではなく、三人分。

「ねー、俺のパンツはー?」

 毛布に包まりながら達海が問
うと、慌てた様子で衣類の仕分
けをしていた後藤と村越がピタ
リと動きを止めた。

「パンツないと、毛布被ったま
んまじゃん、俺」
「あ、あぁ、そうだよな。パン
ツ……ね」
「……新しいの穿いた方がいい
んじゃないスかね。ガビガビで
すよ、きっと」

 後藤が敢えて言わなかったこ
とを、恐らくは親切心から告げ
てしまった村越に、達海は思い
切り枕を投げ付けた。
 この狭い部屋の狭いベッドで、
夕べ達海は後藤と村越に抱かれ
た。
 タオルを敷く手間さえ惜しん
で貪られ、シーツはシワシワの
ぐちゃぐちゃだ。あちこちに汗
と涙とその他の体液が落ちて、
達海が目を覚ましたとき、ごま
かしようのない雄の匂いが部屋
に満ちていて慌てて窓を開けた
くらいだ。
 さらに、二人に抱きしめられ
ながら目覚めてまず思ったのは、
スポーツマン体型の男が三人乗
るベッドではないな、というこ
とで、壁側の村越はともかく、
床側の後藤は落ちる寸前で、実
際、後藤の腕時計を見て驚きと
焦りから起きろ、と叫んだら見
事に落ちた。

「急げよ、お前らー。もうすぐ
有里来ちゃうぞ。しかもあいつ、
問答無用でドアあけるぞ!」

 いまだ裸の達海が急かすと、
先に着替え終わった後藤が自分
のよれよれシャツを見てほんの
僅かに照れたような顔をする。

「有里来そうだったら起きてる
って言っといて……後藤? ど
した?」
「ん? あ、いや、なんでもな
い。じゃあ、先に行くな」
「? うん。て、ちゅーはいい
から早く行け!」

 達海の頬に唇を寄せてから、
後藤がガチャリとドアを開けた
瞬間。

「あっ! 後藤さん! 達海さ
ん起きてる?」
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