Fantasy

□紅黒ニ秘スル【幕間】
1ページ/4ページ

 三弦を弾く音が、耳に響いた。
 ふと目を開けると、後藤が眠
るすぐ側で達海が弓を持ってい
る。
 素肌に、薄紅の夜着を羽織っ
ただけの、月明かりに体の線が
透ける艶めかしい姿がなんとも
云えず情欲を誘って、思わず息
を詰めた。
 抜けた衿から覗くうなじには、
村越がつけたのだろう噛み痕。
 す、と手を伸ばして指先でそ
のうなじに触れた後藤は、三弦
の音色が止めてしまったことを
少しだけ後悔した。
 もっとこの音色を聴いていた
かったのに。

「……起こした?」

 達海を挟んで左側に眠る村越
を気遣って小声で尋ね、左手で
頬を撫でる後藤に甘えるような
仕種で擦り寄ってくる達海は、
まるで子猫のようだ。

「あ……、」
「ん?」
「いや、これ」

 こちらを振り返った達海の喉
元から胸元にかけて、朱い鬱血
が幾つも散っていることに気づ
いた。
 こちらは間違いなく自分が残
したものだ。
 仰向けになった後藤の上に俯
せる達海を村越が背後から突い
て、当然のように達海の中には
すでに後藤が入っていた。
 ふたりに揺さぶられて、達海
は甲高く鳴き、途中には出さず
に達するほど感じていたようだ。
 痕を残されたことに気づかな
いほどに。

「もー、見えるだろ、こんなと
こに痕つけたら」

 案の定、唇を尖らせて抗議し
てくる。
 しかし、達海はすぐに表情を
和らげ、後藤の裸の胸をつい、
と指先で撫でた。

「でも、今日、後藤にいっぱい
触れて……なんか嬉しかったな」

 三弦を寝台の壁に掛けた達海
が体を横たえ、後藤の胸元に唇
を寄せる。
 ちゅ、と音を立てて肌を吸わ
れて、後藤はくすぐったさと愛
しさから柔らかく笑んだ。

「いつも触ってるじゃないか」
「えー? 違うじゃん、いつも
は俺が後藤に触ってるんじゃな
くて、後藤が俺に触ってるんだ
ろ。そうじゃなくてさ、ぴった
りくっついて、心臓の音とか全
部わかって、俺ん中でドクドク
してんのとかも……後藤とひと
つになれたみたいで気持ちよか
った」
「それ、村越が聞いたら拗ねる
ぞ」

 照れ臭くて云うと、達海は悪
戯っ子のように笑んでから後藤
の股間に手を伸ばしてきた。
 散々まぐわった後で達海は満
足しているはずなのに……いや、
むしろ腹いっぱいのはずなのに、
どうしたのか。

「な、もっかいしよ?」
「おいおい、明日は杉江のとこ
ろで、琴を弾くんだろう?」
「うん。だから?」
「だから? って……腰が立た
なくて欠席なんてことになった
ら、杉江はともかく黒田が激怒
するぞ」
「でも、したい。ダメ?」

 上目使いで尋ねる達海のかわ
いらしさは三十の半ばを迎えた
男としては異常である。
 すっかり発情しているらしい
達海はしきりに後藤を煽ってき
て、愛しい達海に誘われれば応
えてやらねば男ではない。
 体を反転させ、達海を組み敷
いて、後藤は達海が好む濃厚な
口づけを見舞った。

「ん……ン、む……」

 達海の腕が後藤の首に絡む。
 同時に腰を擦り付けられて、
後藤は性急に達海の膝を大きく
割った。

「今日はずいぶん欲張りだな、
達海。本当に足腰立たなくなっ
てもしらないぞ?」
「いーよ……明日の宴とかそん
なんより、いま後藤に抱かれる
方が大事なんだ、俺。だから今
日は……いっぱい、しよ? 後
藤がやめたくなるまで、何回で
もいいから。俺が泣いても、絶
対やめるなよ」




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ