Fantasy

□紅黒ニ秘スル【参】
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 堀田は、己のなにがよくて男
たちがこの体を抱くのかよくわ
からない。
 堅く引き締まった肉体、美人
とは言い難い顔立ち。
 赤崎のように若くもなければ
丹波のように気の利いた会話が
できるわけでもなく、堺のよう
に美人でもない。
 まして、達海のように素で男
を魅せる引力など持ち合わせて
いるはずもなかった。

「お疲れ、堀田。おわっ、ずい
ぶん派手にやられたみたいな」

 昼店で取った客は相当溜まっ
ていたのか、めちゃくちゃに腰
を振りたくり、中と云わず外と
云わず、精を吐くだけ吐いてい
った。
 もじゃもじゃ頭のあの客は、
たまに顔を出したかと思うと無
駄に強い精力を発散仕切って帰
っていく。

「どれ、拭いてやるからそのま
ま寝てろ」

 言って、湯を張った桶と手ぬ
ぐいを取ってきたのは店で雇っ
ている仕杖の石神で、汚れた体
を丁寧に拭ってくれる。

「……な、石神さん、そこは別
に……っ!」
「んー? や、ダメだろ、ちゃ
んとキレイにしとかないと」

 ぐちゃぐちゃになっている中
に、石神が押し入ってくる。
 掻き出すように腰を使う石神
に、堀田の体が淫らに揺れた。

「やらしー眺め。俺の、イイん
だ?」
「う、うるさいっ……く、ア!」

 激しく攻め立てられながらも、
堀田は石神の心理が理解できな
い。
 こんなゴツイ男を抱いておも
しろいのだろうか?

「わかってないなぁ、堀田くん。
自分の色っぽいとこ、ちゃんと
自覚しなきゃ」

 事が終わって、掻き出すだけ
ではなく新たに放たれた精を堀
田が処理するところを眺めなが
ら、石神がニヤリと笑った。

「色っぽいって……どこがだ。
こんな、見るからに男臭いやつ
抱きたいとか、意味がわからん」
「いやー、それがいいんじゃん。
女みてぇの抱きたいなら女抱け
ばいいんだしさ」

 そう言われればそうかもしれ
ないが、それにしてもだ。

「俺なら、達海さんとか選ぶけ
どな」
「おっと、いくらなんでも普通
の奴にそれは無理だろー」

 ははっ、と笑う石神は、己で
も信じ難いことに堀田の男だ。
 堀田が金銭と関係ないところ
で抱かれるのは石神に対してだ
けである。

「無理って、なんでだ」
「だって、高嶺の花すぎるだろ」

 アハハと笑う石神に、なるほ
ど、と頷いて、堀田の部屋の窓
から見える離れを見た。
 堀田の部屋の真下が離れに向
かう通路で、離れには唯一の通
路を渡る以外に行く道はなく、
高い塀の向こうは別の遊郭があ
る。

「そういやぁ、達海さんが戻っ
てきたのは、村越さんが役場辞
めてまで探しに行って居場所つ
きとめて、後藤さんと一緒に迎
えに行ったからだっていうのは
本当なのか?」
「らしいぜ。十年も捜してたん
だから、すげぇよな。後藤さん
がここを継いだのが二年前、そ
れまでに自分が継ぐはずだった
大店の家に勘当してくれって頼
み込んで、結局親御さんが親戚
から養子取って後藤さんとは縁
切ったって話だぜ。んで、達海
さん迎えに行ってだろ?」

 この十年、達海はどこでどう
していたのか。
 達海が帰ってきたときから聞
いてみたかった。
 だが、ズルズルとその機会を
逃したまま、既に数ヶ月が経っ
ている。




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