Fantasy

□紅黒ニ秘スル【弐】
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 赤崎はまだ収まらない鼓動が
身の内で騒ぎ立てるのを感じな
がら、後藤の膝に頭を乗せて眠
る猫のような妓芸を見つめた。
 つい先ほどまで後藤に傅き、
その唇で雄を悦ばせていた達海
の性技は、赤崎などでは比べ物
にならないほど上質だ。
 さらに、赤崎が見ている目の
前で後藤に激しく突き上げられ
ている様は、最近になって売れ
っ妓と呼ばれるようになった赤
崎が魅せられるほど淫靡で美し
かった。
 時折いる酔狂な客に、他の芸
妓が別の客に抱かれているのと
同じ部屋で抱かれることがある。
その際に芸妓同士で遊ばされた
りもするが、その時よりずっと
興奮していた。

「後藤さん……あの、」
「どうした、報告ならちゃんて
聞いてたぞ?」

 後藤の激しい攻めにすっかり
くたびれて眠る達海の髪を撫で
ながら、四十目前の店主は言っ
た。
 赤崎は熱い息を吐きながらも
じもじと太腿を擦り合わせる。

「……俺は抱かないぞ」

 所作から後ろが疼いていると
思われたらしい。
 言い切った後藤に、赤崎は首
を振った。

「俺……達海さんと、したいん
ですけど……!」
「……、」

 赤崎の申告に、後藤が言葉を
失う。
 軽く目を見張り、長椅子に腰
掛けたまま食い入るように赤崎
を見る後藤は、やがて苦笑を浮
かべて息を吐いた。

「ダメだ」
「なんでですか」
「達海を抱けるのは俺と、もう
ひとりだけだから」

 汗で肌に張り付いた着物の衿
から覗く胸、淡く色づく突起に
喉を鳴らした赤崎は、やわらか
く達海の頬に触れる後藤を睨ん
だ。

「でも、芸妓ですよね、達海さ
ん」
「だから見下してたんだろう?
達海は客に脚を開かないからな、
つく客は少ない。でも知ってる
だろう、達海につく客は離れな
い。三回達海を指名した客で、
四度目がある客は、それ以降達
海以外を指名しない。どれだけ
他の芸妓が色目を使おうと、絶
対になびかないんだ」

 赤崎は、自分の目が吊り上が
るのを感じた。
 その通りだったからだ。
 決して若くないのに店に立ち
続け、売れっ妓というわけでも
ないのに達海の評価は意外なほ
ど高いし、確かについた客は離
れない。
 付き合いでやってきた気の弱
い客が抱かなくてもいいから楽
だとついているのかと思えばそ
うでもなく、赤崎ですら羨むよ
うな上客を何人も持っている。
 だが所詮、抱けない芸妓など
そのうち見限られるとずっと思
ってきた。

「――ずるい。あんな顔、誰だ
って欲しくなるに決まってる」
「そうだろうな。でも、抱かせ
ない。俺たち以外の誰にもな」
「だったらなんで、店に出して
るんです。さっさと請け出せば
いいんじゃないスか」

 つい、素の口調が顔を出した。
 後藤はそれを咎めはせずに、
薄く笑って気怠げに長椅子の背
に肘を乗せる。
 雇われ店主ながらに実直な人
柄が芸妓からの人気も高い男の
色気を含んだ様子に戸惑う赤崎
は、急に自分を抱かないと言っ
た後藤が惜しくなった。
 達海を抱きたい、後藤に抱か
れたい。
 ふたつの欲望が赤崎の中で責
めぎ合う。

「俺が独占できるならそうして
る。単純じゃないんだ、それほ
どな」
「……俺“たち”?」
「そう。達海を離さないために、
ひとりじゃ危険だから」

 意味がわからない。




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