Short Story 2

□赤崎くんと達海さん
1ページ/5ページ

 俺は、達海さんを連れ出した。
数日部屋に篭って、練習の時以
外は部屋からほとんど出てこな
いようなこの人は、俺の大事な
恋人だ。
 でも、抱き合ったのは一週間
も前。
 抱き締めてキスをして服を脱
がせて肌に触れて……思い出す
だけで興奮してしまうようなア
レヤコレヤを、二十一という年
齢でお預けされても大人しくし
ている俺の忍耐力を少しは褒め
てもらいたいのと、この人は放
っておくと本当に次の試合まで
クラブハウスの敷地内から出て
来ないかもしれないという危惧
があるので、無理矢理にお出か
けしているわけだ。
 当然ながらシタゴコロ満載な
わけだが、でも初手からがっつ
くような格好悪い真似はできな
いし、でもモタモタしてたら、
帰って試合のDVD見る、とか
言い出しかねないこの人を、俺
はとても好きだという気持ちと
その面倒くささが楽しいと思う
気持ちとで見つめる。

「赤崎ー、どこ行くんだよ?」
「そっスね……まぁ、ぶっちゃ
けどことか考えてなかったんス
けど」
「えーっ、なんだよそれ。俺、
ヒマじゃねぇんだけど」
「知ってますよ。でも、こうで
もしないと達海さん、俺とデー
トしてくんないじゃないスか」

 男が男の手を引っ張って歩い
ている図を、当然ながら周囲は
なんだアイツ等、という目で見
ているが、あいにくと達海さん
と一緒のときには常識を捨てる
ことにしている俺は、羞恥心を
明後日に捨ててきた。

「達海さん、俺と付き合ってん
のに、デートとかしたことない
の知ってます?」
「あのねー、男同士でデートっ
て」

 呆れたような達海さんの声に、
俺は思わずムッとした。
 だから少しだけ、年上の恋人
を睨んだ。

「んじゃ、俺と恋人っていうの
も違うんだ」
「……おい、」
「もういいです。恋人じゃない
んスよね」

 パッと手を離して、そのまま
ひとりで歩き出す。
 別に拗ねてるわけじゃない。
 でもちょっとくらいの意地悪、
許してくれたっていいんじゃな
いのか?
 そう思って、しばらく行った
ところで肩越しに振り返る。
 目を見開いて、体全部で達海
さんに向き直った。

「……達海さん」

 数歩後ろに立っている彼の、
悲しそうで心細げな表情に慌て
て、腕を軽く広げてみる。
 すると、達海さんは思い切り
唇を尖らせ、怒っているような
拗ねているような顔で俺のとこ
ろまで来て、胸に飛び込むこと
こそしなかったものの、俺の両
手に指を絡めた。
 ダンスするときのように両腕
を広げてバタバタしている。
 何が楽しいのかと思うけど、
次第に達海さんの表情が和らい
でいくので、いいか、と思う。

「恋人じゃないんでしょ?」
「そういうこと言うのは反則だ
ろ」
「でも、デートじゃないって」
「……三五のオッサン捕まえて
デートとか、ちょっとは戸惑わ
せろよ」
「じゃ、俺のこと好きですか?」

 尋ねてみると、達海さんは思
い切り目を見開いてから、唇を
尖らせた。

「好きじゃなかったら、手なん
て繋ぐかっての!」
「よかった」

 笑って、俺は達海さんの手を
握り直した。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ