Short Story 2

□大好きを叫べ!
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 椿はその日、高校時代の同級
生と居酒屋に来ていた。
 彼らのほとんどは大学生で、
サッカーをしている者もいない
者もいる。
 高二から高三のクラスメイト
で、同じ部活だったのは二人。
ひとりは大学進学を期にサッカ
ーを辞めた。
 彼の家は小さな会社を経営し
ていて、跡を継ぐ為に勉学を選
んだ。
 もうひとりは大学のサッカー
部に所属しているが、プロにな
ろうとは思っていないと笑って
いる。

「だからさー、お前がプロのサ
ッカー選手になるなんて思わな
かったよ」
「本当だよなぁ。しかも、なん
かすげー活躍してんじゃん」
「そ、そんなこと……」
「あるある、大あり! 今んと
ころ、一番の出世頭だろ、お前
が。ま、俺の将来は、お前より
稼ぐけどなー」
「言ってろよ、弁護士志望!」
「残念、今は公認会計士を目指
してる」
「お前、その前は小説書くとか
言ってなかったか?」
「俳優とかって言ってた時期も
あったよなぁ」

 ゲラゲラと笑う彼らは若くて、
自分も同じように若いはずの椿
はニコニコと笑っている。
 ETUの仲間たちはみな、サ
ッカーをしている椿を知ってい
るが、この同級生たちは練習の
しすぎで授業中に寝こけて先生
に怒られたり、学園祭の出し物
でダンスをすることになったの
に、緊張からガチガチでひとり
だけロボットダンスのようにな
ってしまった椿を知っていた。
 だから、彼らと一緒に呑む酒
……ようやっと酒が呑める歳に
なった……は美味くて、ついつ
い杯がかさんだ。
 バカなことを言っては笑い、
思い出話でまた笑う。
 東京近郊にいる五人ほどとは、
たまにメールや電話をしている
が、大学生な彼らとプロサッカ
ー選手の自分では生活パターン
が違うので、中々会う機会はな
かった。
 だが、珍しく時間ができて、
彼らも久々の椿との再会を楽し
みにしてくれていたので、クラ
ブハウスの近くでの乾杯と相成
ったのだ。

「でさ、お前、やっぱモテんの?
ファンから手紙もらったりとか
してるわけ?」
「えっ……えっと、俺は全然。
王子とかはすごいけど」
「王子〜?」
「あぁ、ジーノだろ? なんか
ムカつくほど女に騒がれてるだ
ろ、あいつー」
「うん、すごいよ。しかも、ハ
ーフだからなのか、外国人の女
の人にもすごいモテてて……」
「うわ、ムカつくわ、それ」

 サッカー部ではなかった友達
はETUのメンバーのことは知
らないようだったが、女性にモ
テるという点においては妬みの
対象になるらしい。
 彼も顔立ちは整っていると思
うのだが。

「あー、なんで俺には彼女がで
きねーのかなー」
「バカ、お前はダメだろ。アホ
だもん」
「そうそう、高校ンときから、
お前は下ネタばっかだろ? 女
の子が寄り付くはずねーじゃん」

 ハハハ、と笑う一同と共に、
椿もなるほど、と笑う。
 そう言えば彼は、クラスの女
子に下ネタを連発してドン引き
されていたと思い出した。




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