Short Story 2

□Good night baby.
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※やや本誌ネタバレを含みます。

 コミックス派でまだ知りたく
ない、と思われる方は回避して
いただく方向でよろしくお願い
致します。


 ご了承頂けましたら、下記本
文へどうぞ!
























 晴れた空、草の匂い、眼下で
は子どもたちが楽しそうにボー
ルを蹴って駆け回っている。
 辛くて、苦しくて、悩んで、
僻んで、失ったものを数えてば
かりいる。

「眠れない……」

 昼間見た光景が頭の中で再生
される。
 同時に、様々な音や声が脳裏
に蘇り、達海はギュッと目を閉
じた。








 黒い瞳を見つめる。
 どちらかというと小さい部類
に入り、かつ、見つめ合うとき
の大半は穏やかさと優しさに満
ちているその瞳を、達海は真正
面から見つめる。
 いま、後藤の瞳は、珍しく厳
しい色を隠さないでいた。
 こういう眼をしている後藤を
見るのは久しぶりだ。
 難しい顔で腕組みをして、達
海を睨むように見つめている後
藤に、達海は首を伸ばして唇を
掠め取った。

「……誤魔化されないぞ」
「嘘だね、いま、ちょっと和ん
だろ」

 言って鼻先をつつくと、後藤
は苦みばしった顔で達海の額を
押し戻した。
 事務室にはもう後藤しかいな
いので、達海には遠慮がない。
 そしてそれは後藤にも言える
ことで、椅子の上で膝を立てて
いた達海が椅子ごとキキッとわ
ずかばかり後退したのを、後藤
が押し戻したにも関わらず、ダ
ルンダルンの襟首を引いて強引
に唇を奪ってきた。
 触れる唇の熱さに達海の意識
が蕩ける。
 下腹部の辺りから心臓に掛け
て、甘い波が押し寄せた。

「んっ……ん、ふ……ンぅ」

 後藤のキスは思った以上に長
く、深くて、いつの間にか首の
後ろに回った後藤の腕に頭を固
定され、逃れることのできなく
なった達海を後藤の唇が、舌が
蹂躙していく。
 吸われた舌や唇のやわらかい
粘膜は、後藤の情がこもった愛
撫に応えて熱を持ち、トロトロ
と蕩けていった。

「……これくらいされないと、
誤魔化されない」

 ちゅっ……と音を立てて離れ
た唇に、達海の目尻が潤む。

「後藤……、」

 達海は、自分からキスをする
ことが恥ずかしい。
 フレンチキスくらいならなん
ということはないが、情欲のキ
スとなると、十代の小娘より純
情な仕草をしてしまう。
 かと言って、いざ肌を触れ合
わせるとなると、かなり大胆な
姿を晒すこともある達海なので、
後藤は時々こうして、達海から
のキスをねだるのだ。
 さわさわ、と首に回った手が
達海の耳をくすぐって、達海は
ブルリと背筋を震わせる。
 首の後ろが粟立ったのを感じ
た。

「してくれないのか? じゃ、
やっぱり、あいつと寝てたって
ことなんだな?」

 淡々とした後藤の口調に、達
海の唇が尖る。
 こいつ、こういうときだけや
たらと強気だな――そんな風に
毒づきたいのに、達海が取った
行動は、恥らいながらも後藤の
唇を吸うことだった。
 上唇を吸って、下唇を舐めて、
後藤の舌を吸い上げる。
 自ら進んで後藤自身を口に含
んで愛撫したりする達海だとい
うのに、深いキスが難しいとい
うのはどういう理由なのか。
 自分でもよくわからないが、
恥ずかしいものは恥ずかしい。




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