Important Gift

□大空に向かって愛を叫べ
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「なぁ、達海」

「んだよ。黙って仕事してろよ」

「この状態で仕事するのはちょっと……」

「達海さーん」

「ほら、お前にかかってんだからな」

「あ、あぁ……」





 《大空に向かって愛を叫べ》





こんな状態で仕事をしろというのはかなり酷だ。
ちらりと足元に視線を落とせば足を叩かれた。
手で『こっちを見るな』と払われる。
主旨はまったくわからないが、これも何か意味があるのだろうと自分を納得させ、後藤はパソコンに向き直った。

「いたか?」

「いや。部屋にもいなかった」

「どこ行ったかなー、達海さん」

事務所のドア越しに聞こえるのは、達海を探す選手達の声。
事務所に篭りっきりだった後藤には、何がどうなってそうなったのかわからないが、選手達と『かくれんぼ』をしているらしい。

「医務室は?」

「あっちは清川と椿が見に行ったぜ」

正直、ETUのクラブハウスはさほど広くはない。
子供同士のかくれんぼなら隠れる場所は多いだろうが、大の大人となれば限られてくる。
誰が最初の鬼だったのかは知らないが、次々と見付かった選手達は、一緒になって残りのメンバーを探しているらしい。

「何やってんだ、本当に……」

「だから、黙ってろって」

大きすぎる独り言に、後藤のデスクの下に小さく収まった達海が後藤の膝を叩く。

かれこれ20分ほど達海はココに隠れているワケだが、正直仕事しずらい。
うっかり蹴ってしまいそうで気になるし、廊下に人の気配がないとちょっかいを出してくるしで、さっぱり進まない。
事務所を覗く、という考えは、まだ浮かばないのだろうか。

「ガミさん見付けたーっ!」

「あとは丹さんと達海さんの二人だーっ!」

バタバタと廊下を走る選手達の足音に後藤は溜息を吐く。
遠くで有里の「廊下は走らなーいっ!」と怒鳴る声が聞こえた。

「絶対見付かんないかも、俺」

ニシシ、と笑う達海に早く誰か来てくれと思わずにいられない。
良からぬ事を考えてしまいそうで、理性を保つのも大変だ。

額を押さえたところで、事務所のドアをノックする音が聞こえた。
顔を上げると、世良がドアを開けてペコッと頭を下げた。

「後藤さん、すんません。監督見ませんでした?」

「達海か? いや、見てないが」

「おっかしいなぁ。クラブハウスん中はほとんど探したのに」

腕を組んで首を傾げる世良の後ろから、今度は赤崎が姿を現した。

「後藤さん。本当に知らないんスか?」

「あ、あぁ。知らないな」

じとー、と赤崎の鋭い目が後藤を見つめる。
たかが『かくれんぼ』で後ろめたさを感じてしまうのは何故だろう。

「と、ところで、さっきから騒がしいが、一体何をやってるんだ?」

不自然にならないようにと会話を続けてみるが、デスクの下から不満そうに膝を殴られた。
音を立てずに。

「かくれんぼっスよ!」

「15時まで見付からなかった人は、ひとつだけ俺等に命令できるんス」

「拒否権ないんスよー。丹さんと監督の組み合わせなんて、ある意味最強っ!」

見上げた壁の時計は、15時まで後10分ちょっと。
達海の無茶ブリだけならまだいくらか耐性が出来たとは言っても、丹波も……となるとハードルは跳ね上がってしまう。

「……それは大変だな」

「そーなんスよっ!」

「どっちでもいいんで、見掛けたら教えて下さい」

「あぁ、わかった」

ペコリと頭を下げて事務所を出て行く世良に手を挙げると、後ろ手にドアを閉めようとした赤崎がもう一度振り返った。

「それから、達海さんに伝言」

「伝言?」

首を傾げる後藤に、赤崎はクッと顎を動かして後藤の足元に視線を向けた。

「俺、達海さんのお強請りならいつでも大歓迎スから」

ガタッと鳴った音に気付いていないワケはないだろうが、赤崎は満足そうに唇の端を上げると、静かにドアを閉めた。
世良の後を追うように遠ざかっていく足音を聞きながら、後藤は椅子を引いてそうっとデクスの下を覗き込む。

「……お強請りなんかしねーよ、バーカ」

膝を抱えた達海は、ぷいっと外方を向いて顔を埋めた。
薄暗くて良く見えないが、きっと拗ねた顔をしているに違いない。

「いーから後藤は仕事してろ」

しっしっ、と手で払われて、後藤は苦笑しながらパソコンに向き直った。




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