Important Gift
□ウサギ目注意報
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《ウサギ目注意報》
「う〜……」
小さく唸りながら達海が目を擦る。
何度も擦っても違和感が取れなくて、先程出勤して来たばかりの後藤の元に向かった。
「ゴトー、」
「どうし−−ッ?!」
ボロボロと涙を流しながら現れた達海に後藤はギョッとする。
オロオロしながら近寄ると、涙でいっぱいになった目が見上げてきた。
「なんか目が変ー」
両目とも、ウサギみたいに真っ赤にした達海が唇を尖らせた。
「見てやるから擦るなっ!」
パチパチと瞬きをする度に達海の目から涙が零れる。
「上向いて」
下瞼を押し下げてゴミが入っていないか見るが、それらしきモノは見当たらない。
ついでに上瞼を押し上げてみたら−−
「……」
尋常じゃない充血具合に、言葉も出なかった。
「ゴロゴロするし腫れぼったいし、なんか熱持ってるっぽい」
擦るなと言われて我慢しているのだろう。
ギュッと何度も目を閉じる仕種を繰り返す。
「眼科に行くぞ」
「えー、病院はやだー」
「駄目だ。角膜に傷でも付いてたら大変だぞ」
溢れた涙をティッシュで押さえてやりながら、後藤は渋る達海を眼科に連れて行った。
***
「監督は?」
「部屋にはいないらしいっスよ」
練習に遅れて現れるのは、まぁよくあったりもするのだが。
そういう時は大抵松原に練習内容が伝えられているのが常だ。
だが、今日はそれがない。
「そーいや、有里ちゃんも後藤さんを探してたな」
カバンはあるから出勤したはずなのに、と首を傾げていたのを思い出す。
「……二人揃っていないって、怪しいっスね」
赤崎の一言に選手達が押し黙ると、「あっ」と世良が声を上げた。
「監督いたーっ!」
世良が指差した方を見れば、クラブハウスに向かう後藤と達海がいた。
しかも、手を繋いで。
「達海さんっ?!」
「どこ行ってたんスかっ!」
イイ雰囲気なんてぶち壊してやろうと駆け寄った選手達は、顔を上げた達海に驚いた。
「どっ、どうしたんスかっ?!」
「目真っ赤っスよ?!」
白目が全部真っ赤になってしまった達海の目にざわつく。
うるうると潤ませた目に、誰かが騒ぎに拍車を掛ける一言を放った。
「まさか後藤さんに泣かされた……っ?!」
ギンッ、と怒りの篭った視線を一気に向けられて、後藤は慌てて両手で否定する。
「ちっ、違うっ!」
「後藤に『大嫌い』って言われた……」
「後藤さんヒデーッ!!」
「なんで達海さん泣かすんスかっ?!」
「だから誤解だっ! 達海っ! お前も悪ノリするなっ!」
「達海さん泣いてるじゃないスかっ!」
「ウィルス性結膜炎だっ!」
「「−−へ?」」
眼科に連れて行って検査してもらった結果、達海の異常な程の目の充血は、ウィルス性結膜炎が引き起こしたもので、目を擦り過ぎて炎症が酷くなったらしい。
後藤の必死の説明で、漸く選手達の誤解は解けたものの。
「伝染るんだってさー。だから俺に近寄んなよ」
真っ赤になった目で出された『接近禁止令』に逆らう事も出来ず、選手達はやきもきするハメになってしまった。
更には。
「ゴトー。目薬点してー」
「お前なぁ、未だにひとりで点せないのか?」
「怖くて目ぇつぶっちゃうんだもん。やってやってー」
「仕方がないな。ほら、上向いて」
ただひとり。
『接近禁止令』を出されていない後藤が、甲斐甲斐しく達海の世話をするのを目の当たりにして。
後藤に対して恨めしく思ったのは言うまでもない。
END.
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