Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【67】
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 そう思われていることを達海
は知っているし、それを忘れた
ことなどない。

「羽田はさ、普段、なにしてん
の?」

 すでに呼び捨てに変えた達海
に一瞬だけピリっと鋭い気配を
見せた羽田だったが、達海がい
つも通りの表情でいるのに再び
溜息をついて、塾の講師だ、と
答える。

「へー! なに、お前、先生な
わけ!」
「悪いかよ」
「悪くねぇよ。でもほら、なん
か意外っていうかさ。グラサン
掛けてスタジアムにいるときの
雰囲気からは想像つかねぇじゃ
ん」
「悪かったな!」
「だから、悪くねぇって。って
ことは、頭いいんだ?」
「別に」

 短い答えは懐かない犬のよう
で、達海は笑いながらそのツン
ツンした髪に手を伸ばした。

「! なんだ!」
「ん? いや、それ、どうなっ
てんのかなって思って。よく立
ってるよなその頭」
「頭は立ってねぇよ! 髪だろ!
つーか、なに勝手に触ろうとし
てんだ!」
「聞いたら断られるだろうか、
勝手に触るー」

 言いながらツンツンした部分
に触れると、ガッチリとワック
スで固められている感触がして、
達海はおお、と感心した。
 自分の髪もツンツンしている
が、これは放っておいてもこう
なるのだ。
 濡れているときはともかく、
普段は毛流れがそうなのだから
仕方がない。
 すげぇなー、よく固まってん
な、これ……と思いながら、チ
ョイチョイと弄っていると。

「〜〜〜っ、いい加減にしろ!」
「おっ!」

 顔を真っ赤にした羽田に手を
叩き落された。
 その顔はどことなく少年のよ
うで、達海はニヒ、と笑いなが
らこいつ意外とかわいいとこあ
んじゃん、などと思っていた。

「面白いな、お前」
「うるせぇよ、あんたにンなこ
と言われたくねぇよ!」
「口の悪さは赤崎より上かも」
「……」

 言えば、赤崎がプロデビュー
したあたりからはもう知ってい
るのだろう羽田は沈黙する。
 達海などよりよほど長く選手
たちを見守ってきた羽田だ、そ
れぞれのプレイスタイルやサポ
ーターたちに接する態度など、
よく知っているだろう。

「……あんた、なんでそんなに
無防備なんだ」
「んー? なにが?」

 と、ここでラーメンが出てき
た。達海はいそいそと箸を割り、
麺をすする。
 美味い。

「美味いね」
「……」

 笑いながら言うと、羽田はそ
の顔になにか複雑なものを覗か
せながらふいっと横を向いた。
 そして自分も箸を割り、ラー
メンを食べ始める。
 それからしばらくは無言だっ
た。




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