Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【66】
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「本当にかわいいな、アンタ」
「……どいつもこいつも、目が
おかしいよ」

 案の定嫌がる達海の表情がま
た堪らない。
 村越は達海には笑みを見せて、
次いで椿を見た。
 その視線に、椿はビャッと飛
び上がる。

「椿」
「は、はいっス!」
「お前、今度達海さんの部屋覗
いてみろ?」

 俺がこの手で、選手生命捻り
つぶしてやる、と低い声を出し
てみる。
 もちろん本気ではないが、椿
は以前、達海を襲って恐怖を植
え付けたことがあったりと何か
と危険な奴なのだ。
 これくらいの牽制は許される
だろう、と思ったのだが、何故
だか世良も赤崎も蒼白になって
いる。

「……お前の迫力で言われたら、
冗談に聞こえないんだっつの」

 達海に呆れられて、椿が本気
にしているのだと悟った。
 確かに、お世辞にも優しい顔
だとは言えない村越である。
 凄めばかなりの迫力があるの
は自覚しているので、これには
肩を竦める程度の反応しかしな
い。
 しかし、いつまでもビクつか
れているのはいい気持ちではな
いので、結局は椿の頭をグリグ
リと撫でまわす羽目になった。
 小学生を相手にしているわけ
でもないのに、こいつの怯えた
目は叱られた犬そのものなので
なんだか無性に悪いことをした
気分になるから始末が悪い。

「す、すんません……覗くつも
りはなかったんスけど……達海
さんがかわいくて、つい……」

 それはそうだろう。
 この人のひとりエッチなんぞ、
理性が崩壊して襲い掛かっても
仕方ないくらいの威力があるに
違いないのだから。
 村越は溜息をついて、椿の後
ろ頭をべちっと叩いた。

「とりあえずお前は、夜中にこ
の人の部屋に行くのをやめろ。
自主練したらとっとと帰れ」
「は、はい!」

 答える椿の返事が、本心なの
かただの返事だけなのかはわか
らないが、それはもう椿の理性
に期待するしかない。
 どうしてもだめなら、本当に
潰すまでだ。

「さってと、俺はお仕事すっか
ら、お前らは早く帰れ。村越も、
明日のことばっかり考えてんな
よ?」
「それはどうだかな」

 その忠告は正直、了承しかね
たのではぐらかしてみると背中
にパンチが入った。
 唇を尖らせた達海がスタスタ
とクラブハウスの方に歩いてい
ってしまい、入口で振り向いて、
村越に向かってフン! という
ポーズを取った。

「……かわいいなぁ」

 世良が呟き、赤崎と椿が頷き、
村越は軽く溜息をつく。
 あぁいう仕草のひとつひとつ
が歳に似合わずかわいいから困
るのに、本人は相変わらず無自
覚なのが困る。

「大変っスねぇ、村越さん」
「まぁな。でもまぁ、あの面倒
くささがいいんだ」

 言い切ると、赤崎が嫌そうな
顔をする。
 それを見ながら、こいつもど
ちらかというと面倒くさい部類
だろうな、と思いながら、それ
を手懐けている丹波はやはりす
ごいと思った。

「さて、帰るぞ。散れ、お前ら」
「うーっす」
「おつかれーっス!」
「お疲れっした!」

 三者三様の挨拶をして、それ
ぞれの車……いや、正確には赤
崎の車に世良と椿も乗った……
に乗り込んだ。
 バタン、とドアを閉めて村越
は、

 それにしても、達海さんのひ
とりエッチか……。

 と、ひとりにやけるのだった。


 禁欲生活も、今日で終わる。




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