Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【65】
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 むろん悪気があったわけでは
ないのだろうし、誰もいないと
思ってドアを若干開いていた達
海が悪い。
 悪いのだが。

「お前は〜……!!」
「いひゃい! かんとふ、いひ
ゃいれふっ!!」

 ぶにー、っと椿の両頬を思い
切り引っ張った達海の指先には
羞恥から容赦などというものは
一切感じさせない力加減で、椿
は涙目になりながらギブる。

「す、すんませんっした……!
でも、すっごいかわいかったっ
ス!」
「アホかお前は! あんな……
あんなの、後藤とか村越の前で
もしないのに……!!」

 いや、以前、ホテルの風呂場
で見られたことはあったが、あ
れはあくまで事後処理だ。
 そういうことをしようと思っ
ていたわけではない。
 それなのに。

「達海さん、いつもあんな風に
するんスね!」
「バカ! なに顔キラキラさせ
てんだよ! 忘れろ!」
「無理っス! あんなかわいい
達海さん……俺、もう……!」

 うっとりとした椿の表情を見
て、あぁもうコイツ、なにトチ
狂って俺で抜いちゃってんだよ
……と頭を抱えた達海は、その
鼻先をビシっと弾いて現実へと
引き戻した。

「ってお前、なに思い出して膨
らませてんだよ、変態」
「へんっ……だって、達海さん
がかわいすぎるから!」
「あーもーやめろって! かわ
いいとか言うんじゃないよ、三
十代半ばのオッサンに!」
「かわいいものはかわいいっス!
達海さん……!」
「うぉわっ! アホ! 寄るん
じゃねぇ!」

 危うく襲い掛かってきそうな
椿の様子に、慌てて立ち上がっ
た達海はヒョイ、と交わして椿
から逃れ、ベッドの上に避難す
る。
 すると、唐突にガチャリとド
アが開いて、椿の襟首が思い切
引っ張られた。

「もー、達海さん。逃げる先が
ベッドじゃあ、襲ってください
って言ってるようなものですよ」

 現れたのは堀田で、その後ろ
には赤崎と世良がいる。

「大丈夫っスか、達海さん!」

 達海さん達海さん、と、じゃ
れつく犬状態の椿を押し留める
堀田の脇をすり抜けて、世良が
達海の体を抱き締める。

「なんにもされてないっスか?
変なとこ触られたりとか!」
「あー、あんがとね、ないよ」

 世良は本気で達海が襲われて
はいまいかと心配していて、ぎ
ゅっと抱き締める腕は力強い。
 一方、赤崎はと言えば、椿を
冷たい視線で見下ろしていた。

「お前……ほんっとう、変態だ
な」
「ザ、赤崎さぁん……!」

 情けない声を出す椿の表情は
今にも泣きだしそうで若干不憫
になってくる。
 達海は、Tシャツの丸襟が喉
元に食い込んだ状態の椿を捕ま
えている堀田に、離していいと
指示を出した。

「お前らがいるから平気でしょ」
「……まったく、達海さんは甘
いんだからなぁ」

 堀田が苦笑しながら椿を離し、
椿は噎せながら捨てられる直前
の犬のような顔で達海を見上げ
てくる。




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