Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【65】
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「……アンタはっ!」

 こんなことになるなら、禁欲
など乗るな、と怒鳴りそうにな
った村越にニヒっと笑って、達
海はもう一度爪先立って触れる
だけのキスを一度。

「キスはいいんだもん。な、笠
さん?」

 茫然と達海の様子を見ていた
笠野に、もん、などと言ってみ
せる達海の瞳の中には激しい情
欲の炎が点っていて、笠野は深
く溜息をついた。

「たしかに、いいとは言ったが
な、達海。人前でしていいとは
言ってねぇぞ?」
「人前でしちゃダメ、とも言っ
てねーじゃん。大丈夫だよ、こ
いつら、俺と村越と後藤がデキ
てんのなんかとっくに気づいて
んだろ?」
「そういう問題じゃねぇだろう
が!」

 ニヒヒ、と笑う達海の顔が、
実は相当切羽詰ったものだと、
どれくらいの人間が気づいてい
ただろう。
 もしかすると、笠野でさえ気
づいていなかったかもしれない。
 しかし、そんなときにこうい
う勘が働くのは、実は村越でも
後藤でもなかった。

「どした?」

 尋ねた相手は、椿だ。
 監督室に戻ってカップラーメ
ンをすすっていた達海を訪ねて
きたのは、到底純情とは言い難
いETUの現7番。
 椿は相変わらずのヘタレさで
あたふたしながら、ずぞぞ、と
麺をすする達海の背後に正座し
た。
 そこかベッドしか座るスペー
スがないのだから仕方がない。

「や……その、なんか、達海さ
ん、辛そうだったから……大丈
夫かな、って」
「? なにが?」

 背後に正座されるというのも
中々居心地が悪くて、達海はち
ゅるん、とおそらくは最後の麺
であろうそれを口の中に入れ、
咀嚼し、飲み込んでから椿に向
き直った。

「その……エ、エッチ……して
なくて、寂しいのかな……って」
「……お前、それを本人に訊く
か? しかも、俺の相手でもな
いお前が?」

 達海が呆れながら言うと、椿
は真っ赤になりながらも両手を
モジモジさせて体を縮こまらせ
た。

「そ、それがその……あの、昨
日……俺、また夜中にここ、来
てて……達海さんが……その、」
「……っ!!」

 椿が言わんとしていることを
理解して、達海は毛を逆立てた
猫のように飛び上がった。
 昨日の夜。
 暑くてドアは若干開けていた。
 もう誰も残っていないのは確
認済だったし、それならばよか
ろうと思いながら、達海は後藤
や村越を思いながら自分の体を
慰めた。
 もちろん、それは逆に体内に
くすぶるふたりが欲しいという
種火に油を注ぐ行為にしかなら
なかったが、それでもそうせず
にはいられないくらいに、全身
が熱かったのだ。

「お前……見てたのか!?」
「は、はい……」

 達海が自分で、通常の男性が
触れる場所ではないところでそ
ういうことをしている姿を、椿
は覗いたのだ。




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