Silent Sweetheart 【41〜**】

□Silent Sweetheart 【64】
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「俺が泣かせるっていうのも、
悪くねぇって思ってんだぞ? 
いいのか、このまま俺が、無理
やりお前の体をどうこうしても」
「……」

 わからないフリをしたくとも、
笠野の目がそれを許してはくれ
ない。
 達海はひとつ溜息をついて、
ポケットに手を突っ込み、床を
見つめた。

「よく、わかんねーよ。俺はあ
いつら以外と寝る気ないし、あ
いつらとしか気持ちよくなれな
いと思う。でも、笠さんがそう
いう心配してるってことは、そ
うなんだろ。恋するとキレイに
なるとかって言うの、女だけじ
ゃないのかもしんないしね」

 自分ではわからないけれど、
と呟いて、達海は自嘲気味に笑
った。

「そういうこと考えさせる為に、
禁止っつったんだろ、どうせ」
「……なんだ、わかってんのか」
「俺はね。あいつらはわかって
ねぇよ。つーか、俺だって、考
えたところでどうしようもねぇ
なってわかっちゃったし」

 ふたりに抱かれて、ドロドロ
に熔けて、周囲がそのピンク色
の空気に呑まれてしまったとし
ても。ふたりを求める心に嘘は
つけないし、ついたところで溢
れてしまうだろう。
 昨日、同じように抱かれる立
場の四人で呑んで理解した。
 求めることは自然なことだ。
 相手のことを性の対象として
見ているのだから、これはもう
仕方がない。
 それで周りが達海の甘さに惹
かれてしまうのは問題だし、そ
もそもではどうすればいいのか、
と問われて、一対一ならともか
く二対一のこの関係で、重ねる
我慢は破綻につながりかねない
と思う。
 どちらのことも愛した代償な
のだし、そのことに後悔はない
のだが、もう少し考えた行為を、
と思っても致し方あるまい。
 そのことに気づかない後藤に、
達海は苛立ったのだ。
 我慢しているのは自分と村越
だけだとでも思っているのだろ
うか?
 もちろん、することだけが恋
人ではないし、ゆったりとした
時間を過ごして満たされること
の方が多いわけだが……それで
も、笠野が提示した条件につい
て考えようともせず、性的に高
ぶらせるようなキスをしてきた
ことが達海を怒らせていた。

「さすがにね、起き上がれない
状態で練習観るとか、選手にも
周りのスタッフにも、申し訳な
いと思ったんだよ、俺だって」

 村越が求めてくるまま、身も
心も差し出して、その結果が腰
の立たない状態ではあんまりだ。
 達海はいち社会人として、あ
れはない、と反省している。

「ふーん。だってよ、後藤?」
「……いっ!?」

 笠野が呼んだ名前に、達海は
思い切り驚いた。
 ふて腐れていた顔を上げると、
入口の角から後藤が姿を現す。
 こいつは! と、達海は肩を
怒らせた。




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